その2

 一方、ルコの方は一向に収納されないベルトコンベアを見て不安になり、

「マリー・ベル……」

と質問しようとしたが、それより早く、

「ベルトコンベアの収納不能です」

とマリー・ベルはルコにそう報告してきた。

「このオンボロ!」

 ルコは思わずそう叫んでしまった。

「どうしたのじゃ?ルコ、問題発生じゃろうか?」

 遙華は耳の裏に掛けてあるインカムを通じてルコに聞いた。ルコの叫びが前の三人にも聞こえたらしい。

「何とかするから心配しないで!」

 ルコは先程叫んてしまった時と同様に叫び声で答えを返した。そして、

「マリー・ベル、原因は?」

と聞いた。

「重量が重い補給物資が載っているためです」

 マリー・ベルにそう言われたルコはベルトコンベアの上を観察した。すると、ちょうど真ん中あたりに木箱があった。

 その木箱が原因だと確信すると、ルコはベルトコンベアの上に乗り、その前にあるダンボールを跨いでいき、木箱の前でしゃがんだ。そして、持ち上げようとしたが、持ち上がらない。それどころか、びくともしなかった。女の子ってこんなに非力なのかと思い知らされる出来事だった。

「これ、頼んだの、誰よ」

 ルコは悪態をつきながらその木箱を確認した。

 木箱には缶詰が詰められ、缶には「お得用フルーツ盛り合わせなんと1.5kgに増量中」と書いてあり、それが24缶入っていた。

「これ、注文したのは私だ……」

 ルコはそう呟くと、自分の所業を呪い、頭を抱えた。

「合計36kg、う、動かない……」

 ルコは意味不明な言葉を口走りながら懸命に木箱を動かそうとしていたが動かなかった。そして、とっても焦った。

 前方では三人が拳銃に引き金に指を掛けて今にも発射しようとしていた。

「距離200です」

 マリー・ベルがそう言うと、瑠璃・遙華・恵那の三人は一斉射撃をした。ビーム弾は三体の猪人間を貫いた。

 三人の使っている拳銃は火薬式ではなく、エネルギービーム式であった。この事からも分かるようにこの世界は21世紀の初めの地球より文明が進んでいる事が分かる。進んでいるという言い方は適切ではないかもしれない。この文明を築いた人類は既に滅亡していたからだ。そして、その人類の代わりとして、ルコ達の前に敵として現れた猪人間達がこの世界を支配していた。

 猪人間は一見人間の形をしているが、牙を持っており、鼻がぺちゃんこだった。ゲームに出てくるモンスターのオークに姿形が似ていると言っていいだろう。

「しかし、銃ってのは凄いものじゃな」

 200mの銃撃を成功させた遙華は感動していた。

「次、行きますわよ」

 瑠璃がそう言うと、三人は次の標的に一斉射撃をし、更に3匹の猪人間を貫いた。見事に息が合っていた。

 ルコ達の武器はビーム型の拳銃だが、猪人間の武器は石槍と石弓だった。射程は10倍ぐらいの差があった。そして、何よりも石弓と石槍では装甲車にはほとんどダメージを与える事が出来なかったので、武器の性能の差は歴然としていた。しかし、身体能力に関しては、逆に猪人間の方が圧倒的に優れていた。ルコ達四人で1匹を倒す事が出来ないどころか、軽く捻られてしまうほどの力の差があった。

 猪人間たちはこの怪力を使って装甲車に体当りし、横転させてから、大きな岩などをぶつけて力技で装甲車のドアを破り、中の人をさらっていくという所業を行っていた。

 瑠璃・遙華・恵那は続いて3回目の一斉射撃を行った。しかし、これは3発とも外れてしまった。それはそれまで直線的に突撃してきた猪人間達が仲間を倒されたのを見て急に不規則な動きをしたせいだった。猪なのに猪突猛進だけではなく、臨機応変に対応もできるようだ。

「こいつらかなりの手練じゃな!」

 遙華は忌々しそうに言いながら射撃を続けたが、当たらない。

「このままじゃ、一気に距離を詰められるわ!」

 恵那も必死に狙って入るが、猪人間の不規則な動きについて行けなかった。実際、猪人間は一気に近付いて来ていた。

「敵を近付けないように牽制射撃!側面に回り込まれないように!」

 瑠璃は猪人間に当てる射撃から牽制しながら距離を保つ射撃に変更するよう指示を凛々しい口調で出した。

 装甲車は長細いので、正面や後方から体当たりされるより、側面から体当たりされる方が横転の危険性は高いのは明白だった。猪人間もそれは十分承知しているようだった。

「了解じゃ」

「何とかやってみるわ」

 遙華と恵那も同意したが、苦戦していた。

「どうしよう?」

 前方での戦闘が苦戦しているのをインカム越しに聞いていたルコは大汗を掻きながら焦っていた。文字通り押しても引いてもダメだった。

「ルコ様、猪人間4体が後ろに回り込みました。警戒を!」

 マリー・ベルがそう警告したが、既に時遅く、猪人間が2匹ベルトコンベアの上に飛び乗った後だった。

 ベルトコンベアの上に載った2匹と目が合ったルコは恐怖のあまり体が固まった。

 1匹の猪人間が弓を引いているのが見えていたが、身動きが出来なかった。矢はスローモーションを見ているかのようにはっきりと飛んでくるのが見えたが体が強張り、避ける事さえ出来なかった。

 ゴンという音がして矢がルコの頭に衝撃を与えた。あまりの事に目を閉じる事も声を上げる事も出来なかった。

 やられてしまったというルコの思いとは裏腹に、矢が目の前を落ちていった。

 その光景にびっくりしたルコだったが、衝撃以外に痛いところはなかった。それもそのはず、矢はヘルメットに直撃しただけであった。

 猪人間は狙った場所に当たったのに跳ね返されたのに驚いているようだった。

 その表情見たルコは我に返り、無意識のまま銃を抜いていた。

 猪人間の方は二の矢を準備していてこちらを狙っていた。

 ルコは猪人間が二の矢を放つ前に、銃撃した。しかし、弾は猪人間のそばを通過しただけだった。ルコは三人とは違って射撃が下手であり、10m先の止まった標的も6,7割の命中率しか出せない腕前だった。この銃はそれほど扱いが難しいものではなく、ルコ以外の三人はすぐに200mの長距離射撃をマスターできたくらい簡単なものだったのだが……。

 しかし、幸いな事に銃撃の効果は十分にあり、驚いた猪人間は矢を放つのを失敗した。

 それを見た後ろにいた別の猪人間が弓の猪人間を押しのけて石槍を構えて突撃してきた。

 ルコはそれに対して冷静というか無意識のまま狙いを定めて銃撃した。今度は猪人間の眉間を打ち抜き、後ろに吹っ飛んだ。吹っ飛んだ拍子に弓の猪人間も巻き込んでベルトコンベアの上から転げ落ちた。

 一連の戦闘は短いものであったが、ルコにとっては終始スローモーションの中、行われているように感じられた。

「ルコ!大丈夫なのか?返事をするのじゃ!」

 遙華が悲鳴にも似た声でインカムから呼び掛けた。

 前部の戦闘は、ルコの様子が気になって動揺した一瞬の隙きを衝かれて猪人間達に一気に距離を詰められていて戦線崩壊の危機に陥っており、外から狹間目掛けて石槍を突き立てられていて銃撃を阻まれていた。

「マリー・ベルゥ!!」

 ルコは遙華に返事をせずにマリー・ベルを上ずった声で呼んで、

「急速前進!ベルトコンベアを引き抜いて!」

と怒鳴った。何か別のスイッチが入ったという感じだった。

 その時、下に落ちた猪人間とは別の二匹の猪人間がベルトコンベアに載り、ルコを見るとニヤリと笑うのが見えた。

「はい、承りました。皆様、手すりにお捕まり下さい」

 マリー・ベルはそう返答した。

 ルコが両側の手すりに飛び乗るのと同時に、車はキュルンというタイヤが急回転する音を出して一気に前進してベルトコンベアが引き出されると一気に急停止した。

 中にいた前の三人は激しい衝撃に大きく揺さぶられだが、手すりに捕まってそれをやり過ごした。

 車両前部のそばにいて体当りをしてきた猪人間達の多くは低い音と嫌な悲鳴と共に大きく跳ね飛ばされていた。後ろのベルトコンベアに載っていた猪人間はベルトコンベアがガコンという音を出して地面に激突するのに合わせて顔から地面に叩きつけられていた。

「ゴキャンという音がしたのじゃ。ゴギャンと」

 突然のあまりの出来事に遙華は意味不明な事を言って瑠璃と恵那と交互に顔を見合わせていた。

 瑠璃と恵那はあまりの事に声を失っていた。

 前部でも後部でもあまりの事に猪人間達の動きは完全に止まってしまった。

 ルコは手すりから落ち、尻餅をついていてパンツ丸見え状態だったが、すぐに立ち上がると散らばった補給物質を次々と飛び越えて後部ドアの前まで走った。そして、顔を打って悶ている猪人間を容赦なく銃撃して倒すと、隣の猪人間に対しても銃撃をしたが、その猪人間は横飛をして間一髪逃れた。

「後部扉、閉鎖!」

 ルコは深い追いせずに後部のドアを閉じた。とりあえず、これで後部の危機は去った。

 ルコの閉鎖の声を聞いた遙華・恵那・瑠璃ははっと我に返った。

「鏖殺せよ!」

 瑠璃がそう言うと、三人は唖然としている猪人間たちに向けて一斉射撃を加えて次々と倒していった。瑠璃の口調は戦闘になってからずっと指揮官らしい声がよく通っており、いつものおっとりした口調ではなかった。

 この一斉射撃にこれまで規律だって攻撃してきた猪人間達は壊乱状態に陥り、そのまま規律を取り戻す機会がなく全滅していった。残った後部の二匹の猪人間もこれだけの近距離ならルコでも外す事はなかったので次々と倒されていった。

 終わってみれば、ルコ達四人の圧勝で終わった戦いだった。

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