ルコ
妄子《もうす》
1.初戦闘
その1
「北、12時の方向に猪人間を確認。距離約2km」
装甲車搭載のAIであるマリー・ベルが急報を入れてきた。
急報だが、AIらしく無機質な口調で全く抑揚がなかったので、ルコには非常事態だとすぐにはピンとこなかった。マリー・ベルはどんな時でも同じ口調なので責めてはいけない。
ルコはつい15日前にこの異世界に転移してきたゆるふわ黒髪の女の子だった。ヘルメットを被り、上下茶色のセーラー服を着ており、その上に白い防刃ベストを着ていた。更にスマートグラスと思われる眼鏡っぽいものを掛けていたので、異様だと言えば、異様な格好をしていたが、万が一に備えた格好をしていただけだった。そして、万が一の備えがまさに今役立っていた。
「ルコ様、ここをお願いしますわ」
ルコと違って正確な反応をしたのはお姫様カットの長い髪を持つ
おっとりとした口調とは裏腹に、瑠璃はルコにそう言うと、すぐに立ち上がり、装甲車の前方へと駆け出していった。無論、敵に備えるためである。
瑠璃はルコと同じく15日前にこの世界に転移してきたが、ルコとは別の世界からの転移だった。
ルコは訳分からずという顔をしてそんな瑠璃をただ見送った。
「敵の数は8。まっすぐこちらに向かってきます。最短接触時間は約3分です」
マリー・ベルは続報を入れてきた。
ちょうどその時、ルコの目の前のベルトコンベアの上を駆け抜けてくる二人がいた。一人はサラサラな銀髪を持った幼女で、名前は
「ルコ、ここを頼むのじゃ」
遙華はルコの前を駆け抜ける時にそう言った。幼女姿なのに言葉遣いが爺さんぽいが、声は幼女の舌足らずの可愛い声だった。
「よろしくね」
恵那はちょっとミステリアスな笑顔でルコにそう言うと、遙華と共に装甲車の前方へと駆けていった。
現在、ルコ達は補給作業中で、補給車からベルトコンベアを使ってルコ達が乗っている装甲車へと補給物資を搬入している最中だった。ルコは床下の倉庫の入り口にちょうど座って、補給物資がきちんと収納されていくかを監視していた。監視と言っても全自動なので見ているだけだったのだが。
「わ、分かったわ」
ルコは二人が駆け抜けていったところで、ようやく事態の緊迫した状況が飲み込めたようだった。
「後続の猪人間を確認。数は8体。これで合計は16体です。いずれもこちらに向かってきます」
マリー・ベルは続々報を入れてきた。
「搬入作業を中止!直ちに補給車側にベルトコンベアを戻して!」
ルコはようやく頼まれた処理の指示を出した。
「はい、承りました」
マリー・ベルはルコの指示にそう応えた。
瑠璃は車の前部に辿り着くと、
「1番から4番、照準表示!」
と先程のおっとりした口調から凛々しい口調に切り替わっていた。何かのスイッチが入ったという感じだった。
この装甲車には窓が全く無かった。外の様子はカメラからモニタに映し出される仕組みになっていた。また、各所に銃撃を行う開閉式の狹間があり、それぞれに番号が付いていた。瑠璃はその番号を呼んだのであった。瑠璃自身は中央左側の2番の前に陣取った。
少し遅れて遙華と恵那が到着して、瑠璃の左側に1番に遙華、右側4番に恵那がそれぞれ立った。
モニターには車両前部の狹間1番から4番から見る外の様子が表示され、その上に周辺地図と猪人間の位置を示す赤丸が表示されていた。
「昼間は活動しないって言ってたじゃない!」
恵那は話が違うという顔をしていた。
「それはこの都市外の村にいる定住種の猪人間の事じゃ」
遙華は恵那の隣で間違いを訂正した。
「え?じゃあ今向かってきているのは?」
「各地を放浪している放浪種じゃ!」
恵那は遙華に言われてポカーンとしていた。どうやらよく分かっていないようだった。先程、ルコに見せたミステリアスな笑顔が台無しになるぐらい、間抜けた顔をしていた。
「そんな事より、お二人様、距離200で射撃しますわよ」
瑠璃は二人の会話を遮って凛として言った。
「了解じゃ」
「分かったわ」
遙華と恵那は瑠璃の指示に従い、戦闘に集中する事にした。
「更に後続の猪人間を確認。敵は4体。これで合計……」
マリー・ベルはそう言ったが途中で報告が途切れた。
「どうしたのじゃ?」
遙華は途切れた言葉が少し経っても続かないので驚いて聞いた。
「失礼しました。一つ向こうの東側の通りにも猪人間を4体確認。合計24体です」
マリー・ベルは3回目の続報を入れ直してきた。
「まずいですわ」
瑠璃はそう言うと唇を噛んだ。
「ああ、前面の20は囮じゃな。別働隊で後ろに回り込む気じゃ」
遙華は瑠璃の考えを察した。
「奴ら、後ろの扉が開いているって分かっているの?臭いが漏れたから?」
恵那は焦っていた。
「臭いは嫌な言葉ですわ」
瑠璃は恵那の言い分にツッコミを入れた。
「ああ、全くじゃ」
遙華も瑠璃の意見に同意した。
臭いというのは無論ルコ達四人の臭いであり、猪人間はその臭いを数km先からでも察知できる能力を有していると言われていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます