その2
「いつまでも裸というわけには行くまい。服を早く着るのじゃ」
遙華はビニール袋から服を取り出して並べたが、そこで手が止まった。
「これ、どうやって着るの?」
恵那もその隣で袋から服を取り出したが、困惑の表情を浮かべていた。
「妾にも分かりかねますわ」
瑠璃がそう言うと、三人はルコの方を見た。
ルコはビニール袋を手に取って中身を確かめた。
これって、セーラー服よね。
3人はこういった服は知らなくて当然よね。
たぶん別の世界から来たようだし。
とは言ってもここはどこなのか分からないけど。
「ルコ、主には分かるのじゃな?」
よく私を観察していた遙華に聞かれて、
「ええ、まあ」
と私は短くと答えた。
セーラー服の着方や脱ぎ方はネット動画などで何度も見た事があるけど……。あれ?実際に見た事ある?でも、実際に着るのは初めてよね、たぶん。私、前の世界では男だったはずだから。
私はその辺の記憶がどころか、自分の事についての記憶がかなり曖昧だという事を感じていたが、妙な事は覚えているらしかった。
私は袋から服を取り出そとしたが、テーブルの上に小さなものが置かれているのに気が付いた。
それを取り上げると、
「フック型のイヤホンかな?」
と独り言をいうと、耳の裏ににそれを引っ掛けた。
このイヤホンは耳穴を塞ぐタイプではなく、ただ耳の裏に引っ掛けるタイプだった。振動で音を伝えるタイプだった。
「ようこそ異世界へ、ルコ様。私(わたくし)はAIのマリー・ベルと申します」
イヤホンから女の声が急にした。
「どうも、はじめまして」
ルコは驚きながらもそう答えた。
「こちらこそ、はじめまして。これからよろしくお願いします」
マリー・ベルはそうルコに返してきた。どうやらルコの声が聞こえるようだ。
ああ、これ、インカムってやつね。
そして、ここは私のいた世界より文明が進んでいるわね。
だって、こんなに流暢に話をするAIなんて私の世界ではまだ考えられないわよね。
つまり、やっぱり、異世界にやって来てしまったという事ね。
「どうしたのじゃ?」
私の様子を見ていた遙華が驚いていた。
「みんな、テーブルの上にあるこれを耳に掛けてみて」
説明するより体験させたほうが早いと感じた私は三人にそう言った。
「え?何?」
恵那は困惑の声を上げた。他の二人の同じように困惑していた。
「ほら、これを耳に掛けて」
ルコはそう言うと、一番近くのインカムを隣の瑠璃の耳に掛けた。
それを見た恵那と遙華は装置を取って耳に掛けた。
「皆様、はじめまして。私(わたくし)はAIのマリー・ベルと申します」
再びインカムから声が聞こえた。
「なんじゃ?えい?なんじゃ?」
「声が聞こえますわね」
「不思議ねぇ」
三人はこういった事が初めてなので素直に驚いていた。
「お召し物をご用意させていただきましたので、まずはお着替えを。着方に関してはルコ様をお手本にして下さい」
マリー・ベルは人工知能らしく極めて事務的な口調で四人の置かれた状況を無視して言った。
「何で私なんですか?」
私は思わぬ言葉に裏返った丁寧語で返してしまった。
「ルコ様なら分かりますので、ご指名させていただきました」
マリー・ベルはそう断定した。
「分かる事は分かりますが……」
そう言われた私は丁寧語でどもりながら三人の注目を浴びていたので、諦めて袋から服を取り出した。
あ、これ、うちの学校の制服だ
セーラー服の上着とスカートを取り出しながらそう思った。
スカートは茶色のプリーツスカートだった。セーラー服の上は、スカートと同じ色の茶色を基本としていて、セーラーカラーは白で茶色の3本のラインが入っており、袖口も白で茶色の3本のラインがあった。また、スクールリボンも入っており、セーラー服の茶色より明るめの茶色のリボンだった。
あれ?やっぱり変な記憶はちゃんとあるのね。でも、流石に着た事はないはずよね、また確かめてみたけど。
そう思いながら次に取り出そうとしたものに触れて一瞬手が止まり、心臓がドキドキした。
これって、パンツだよね。
ルコの手は白いレースのちょっと大人っぽいパンツに触れていた。しかし、固まっていても仕方がないので、ドキドキしながらもパンツを取り出し、ブラを取り出した。ブラにも白いレースが施されており、上下お揃いのものだった。
ただの布なのに自分で身に付けるとなるとドキドキするわね。
後は、紺色のニーソ、胸元にレースとリボンがあしらわれたキャミを取り出して、全て取り出してテーブルの上に置いた。また、テーブルの下にはセーラー服に合わせた茶色の編み上げブーツが置いてあった。
他の3人はその様子をじっと見ていた。
注目されながら着るの?
私はちょっとたじろいでいた。
いや、大分動揺していた。
「ねぇ、早く着方を教えてよ。ちょっと寒くなってきた」
恵那は大いに動揺している私を促してきた。
瑠璃と遙華の2人も頷いて私の着替えを促していた。
何でこんな事になっているの?
なんか目眩がしてきた……。
結局、私は皆の前でセーラー服の着方を実践しながら教える事となった。
これにより、何か違う世界に入ってしまった自分を感じた。
尤もここは異世界なのだが……。
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