第8話 二人の友人
結局、昨日の夜飯も俺と
お兄ちゃん、本当に悲しい。
もっと、妹に構ってもらいたい。なのに、構ってくれない。
本当に金を利用するという方法で良かったのか。
それに関して今、俺は
「なあ、俺の金が虚しくなる割には雨音からの好感度上がんねーんだけど」
「うん。それはどんまいとしか言いようがないな」
「え、本当に守の提案を採用したんだ。······やっぱ
俺の言葉に続き、守と玲香が言葉を放った。
守はまだしも玲香はどうゆう事だよ。
やっぱ、晴斗は晴斗? 何かその発言には悪意を感じるんだけど。
「で? 妹さんからの好感度が高くならないからどうしたんだ? 俺らにやれることなんてないからな?」
妙に冷たいお断りモードで守は言った。
「そんなこと言わずに、なんか協力してくれよ」
俺が二人に頼むと、玲香が「そういえばさ」と、話題を変えるような前置きをして、その続きの言葉を発する。
「もうすぐテストだよ? 晴斗妹ちゃんのことばっか言ってるけどテストは大丈夫なの? 今回こそ数学と理科の赤点を回避出来るの?」
「そうだぞ。俺は国語と社会が赤点にならないように今、必死に努力をしている。妹に構う暇は無いだろ?」
二人してテストの話題。
みんなそんなにテストが好きで妹が嫌いなの。俺は妹大好きだけど、テストは大嫌いだよ。理系科目に関しては話題にもしたくない。
だから今、守と玲香が話している内容が俺は嫌いだ。話題を戻したい。
その心に任せて俺は一気に話題を変えようと試みる。
「テストなんてどうでもいいって、それより昨日雨音が――」
「ねえ守。この数学の問題教えてくれないかな?」
話そうとした所を玲香によって遮られた。
「おう、どれどれ。ああ、これはこうしてこうやるんだ」
「なるほど。ありがとう!」
だから、俺は怒る。
「って人の話は最後まで聞けよー!」
俺の妹トークを遮って数学の話を守と玲香はしやがった。
遮ってまでする話ではないだろ。何でそんな重い話ばっかするんだよ。
昨日あった妹との出来事。俺の今の財布の中身は何円入っているか。妹からの罵倒をどれほど食らったか。妹からの称賛をどれほど得られたか。
何でもいいからここら辺の話題が欲しかった。
テスト
「聞いてるぞ。晴斗が最後まで話さなかっただけ」
守に続いて次は玲香が口を開ける。
「てか、晴斗は国語と社会は大丈夫だと思うけど、それ以外どうするの? 真面目に理系科目にも向き合わなきゃだめだよ。しかも今回に限っては数学の先生から『期待』されてるそうだしね」
そして、俺は『期待』という二文字に謎の威圧感を味わった。
もう、あの先生許さない······。
どうやら、今回のテストはきちんと勉強しなければいけないらしい。
「じゃあ、お前らは勉強進んでんのか?」
俺は二人に勉強の進捗状態を尋ねた。
「俺は国語と社会以外は大丈夫かな」
「私は全教科大丈夫」
守はまだしも玲香は何かうぜえ······。
事実、玲香はものすごく頭がいい。
国語は俺に続いて学年二位、社会は堂々の学年一位で文系科目はほぼ完璧。
一方で数学は守に続いて学年二位、理科は学年一位。
英語なんか毎回百点である。
本当に勉強が出来すぎている。
そんな玲香でもさっき守に数学の問題を教えて貰っていたから俺はその問題を一見したくなった。まあ、見た所で、俺の脳が破裂寸前まで膨れ上がるだけなんだけど。
「そうか······」
俺は悔しい気持ちになった。
何で守よりも数学と理科が出来ないのか。
何で玲香はこんなに頭がいいのか。
そして、なんで俺は国語と社会しか出来ないのか。
何故か悔しい。
何とかして理系科目にも向き合わなければならない、そう俺は思ってしまった。
そんな悔しんでいる最中に守が俺の肩に手を置き、声を掛けてきた。
「何か、今の晴斗の様子悔しそうだな。良かったら勉強会でも開いて数学と理科教えようか?」
初めて守の笑顔がイケメンに見えたのかもしれない。
まじで教えて貰えると助かる。だけど、それじゃあ俺が守を頼っていることとなる。
しばらく考えた後で俺は守の提案を少し変更した。
「じゃあ、お前が俺に理系科目教える代わりに俺がお前に文系科目を教えるでどうだ?」
これが最善の策だ。
俺は守を頼る。しかし、俺は守に頼られる。プラマイはゼロ。完璧な案だ。
その案に対して、特に不満の色も浮かべずに守が首肯する。
その首肯の後に次は玲香が言葉を放つ。
「私もその勉強会行ってもいい?」
もちろん俺の答えはイエス。
玲香は全教科完璧に近いほど、よく出来ているが、その中でも特に英語の出来がいい。ならば、英語能力平凡の俺と守のいい先生になってくれるだろう。しかも、その他の教科も何でも訊けるし、これでノーと言うわけがない。
「「もちろんいいぜ」」
俺と守は口を揃えて言った。
守も玲香に対して、ものすごく期待しているのだろう。そこから俺と守のオーラが『期待』という二文字で埋め尽くされているのが分かる。
それが見えたのか、玲香に少し距離を置かれた。
まるで、数日前の俺の妹のようにゆっくりと距離を広げられていった。
「そんなに期待されると私も困るな······あはは」
そして苦笑い。
今、玲香は『期待』という二文字から威圧感に襲われている。別に威圧するつもりではなかったが、自然とその言葉が威圧してしまったらしい。
申し訳ないな。
俺はそう思った。
しかし、さらに玲香に対して威圧を掛ける馬鹿がいた。
「玲香が困ってても俺らは期待するぜ」
······馬鹿だなこいつ。
さっきの玲香のよそよそしい態度から見てみるに期待しないで、ということだと思うが、守はそれを打ち破った。がんがん期待してあげる、と言ったようなもんだ。
守って女子に対して嫌がらせをする趣味あんの? それはちょっと気持ち悪い。
案の定、玲香はさらに俺らとの距離を置いた。
それも上からイノシシが乗せられたぐらいの威圧感に襲われたからだろう。
「いや、本当に期待しないでね? 後で玲香のせいだぞ、とか言われても困るからね」
頬を膨らませ玲香はそう言った。
一瞬のその顔はめちゃめちゃ可愛かった。
俺は写真を一枚撮りたくなったが、ここは校内で今は昼休み。
先生も教室に存在感を存分に漂わせているのでやめておくことにした。
一方、玲香の怒りに対して、守は頬を赤く染めている。
「お、俺はそんな酷いこと言わない」
何か違和感がある。何だろう。言うならば緊張感。さっきまで普通に守は玲香と話していたが今は緊張している。
まあ、分からないこともない。さっきの玲香の頬を膨らませていた時の顔は本当に可愛かったもんな。
恐らく、俺も守と同様、頬を赤く染めていただろう。
そして、その可愛さ
まじ、玲香さんすごいっす。
ずっと頬を膨らませていてください。
「······ならいいけど」
これは期待してもいいよ、ということなのか。ならば、俺も玲香に対して期待する。
「俺も勉強を教える玲香のわかりやすさに期待してるぜ」
この時、玲香には使命というものが生まれたのだと思う。
それは次の玲香の言葉が教えてくれた。
「もう、仕方ないな」
ため息を一つ。
そして、言葉を繋ぐようにして玲香は笑顔で言う。
「妹様に任せなさい!」
――これは俺が一年前、両親の海外出張を反対していた時に救われた雨音の言葉。
だけど何で玲香がこんな言葉を放ったんだ?
この時、俺は妙な既視感に襲われた。
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