第8話 カスミ先生の苦悩 (カスミ視点)
ローブを着て、大きな宝石のついた杖を持つ男は、低い威圧的な声で話し始める。
「私は宮廷魔術師長のクルドニウス・マーリニアだ。
そなたたちにはこれから、我が国を脅かす者どもを倒すのに協力してもらう。
まずは自分たちの能力を確かめ、装備を整えるのだ。
さあ、あの壁際にある鑑定の宝玉を順番に使うがよい」
また、鑑定系のアイテムだ。
前にいた所では鑑定の石版だったが、友人がESPで表示をごまかしてくれたので、私たちの異常に高いステータスはばれずにすんだのだ。この世界ではどんなものだろう。
前の経験からステータスを意識すれば自分には見えるのではないかと思い、斜め上の中空を眺めながら心の中でステータスとつぶやいてみる。
体力9999+
魔力9999+
力 9999+
素早さ9999+
名前 霧野(キリノ) 香澄(カスミ)
適性 空手家
Level 1
体力 856023
力 883015
速度 967101
魔力 9999999^99999010
魔力適性 無色
スキル 言語理解 空間転移 往年の力
「うわっ」
思わず声が漏れた。
いつもの見慣れた4種類のみのシンプル表示の他に、名前やスキルが載っている詳細な表示の画面が重なって見える。
こんな時は意識してどちらかに集中すればそちらが優先して見えるはずだ。
私は、いままで見たことがなかった方の表示に意識を集中する。
あれ?以前いた所の最盛期のステータスがもどってきている?
現代日本に帰ってきて魔力以外のステータスは普通の日本人になったと思っていたのになぜ?
そのとき私は、ステータスに往年の力という表示があることを目聡く見つける。
スキル『往年の力』に意識を集中すると詳細が表示される。
往年の力:魔力を消費し最盛期の力が使える。パッシブスキル。
魔力がある限り使い続けることができる。
魔力が10パーセントを下回ると自動的にOFF状態となる。
どうやらこの世界に召喚されて新たに覚えた力のようだ。
魔力の数値も今までは9999の9999乗という表示で振り切れていたが、今回は振り切れていない。
それにしても『^』マークは指数部分を意味しているのだろうが、とんでもない大きさだ。
こんなぶっ壊れたステータスがばれたら、この世界でどうなるか分かったものではない。
さて、どうやってごまかそうかと考えているとクラスでやたらと目立ちたがる男子生徒が声を上げた。
「ちょっと待ってくれ。
いきなりこんな所に連れてこられて戦ってもらうとか言われても、ハイそうですかと言える訳がない。
俺たちは平凡な高校生だ。
戦いなどと言われてもできるはずがないじゃないか。」
「そうだ、そうだ!」と心の中でつぶやいたつもりが、声になっていたのだろう。
隣の女子生徒から「あなたは高校生じゃありませんよね、先生!」と小声えでつぶやかれた。
宮廷魔術師のクルドニウスはなれた様子でそれに答える。
「君の意見はもっともだが、君たちには選択の余地はあまりないのだ。
私が行使した召喚の魔法は、一方通行だ。
君たちには気の毒だがこの世界で生きていくしか道はない。
もちろん、王宮から出て自分で生活することもできるが、この世界のことが全く分からない状況でここを飛び出して生きていけるのかね。
出て行くにしても、我々とともにある程度行動し、この世界が分かってから出て行けばいい。
それに、戦えないと言うが、君たちには召喚によって次元の壁を越えるときに、必ず何らかの能力が付与されている。
自分の能力も知らずにこの場を飛び出すのはお勧めしないね」
なにかうさんくさい。
手慣れすぎているというか誠意が感じられないというか。
私が持っている感情を感じ取るESP、エンパシーの効果だろうか。
クルドニウスは何度もこんな場面を体験しているように感じる。
しかし、クルドニウスが言うことにも一理ある。
そんなことを考えていると、目立ちたがりの大塚君も決断したようだ。
「くっ仕方ない。
しばらくはあんたたちの言うように行動しよう」
そう言うと自ら鑑定の宝玉へ近づき触れた。
名前 大塚(オオツカ) 正義(マサヨシ)
適性 勇者
Level 1
体力 10
力 10
速度 10
魔力 11
魔力適性 赤色
スキル 言語理解 魔法剣 ヒーリング
鑑定の宝玉の上に文字が浮かび上がる。
私はすかさずサイコキネシスで表示の文字に干渉できないか試してみる。
一つだけ大きい魔力の表示『11』に意識を集中し、文字の内の一つを0に変えようと念動の力を文字に用いる。
正確には文字を構成している物質の粒子に働きかけるようにしてその配列を操作する。
このやり方は、前の召喚時に親友が『液晶粒子にESPを作用させることで表示をごまかせる』といっていたので上手く行く可能性が高いと思われる。
名前 大塚(オオツカ) 正義(マサヨシ)
適性 勇者
Level 1
体力 10
力 10
速度 10
魔力 10
魔力適性 赤色
スキル 言語理解 魔法剣 ヒーリング
成功した。意識した数値のみを『1』から『0』変えることができた。
これで、自分のステータスが表示されたときにごまかせる。
そう考えてしばらくすると、私の番が来た。
名前 霧野(キリノ) 香澄(カスミ)
適性 空手家
Level 1
体力 023
力 015
速度 101
魔力 010
魔力適性 無色
スキル 言語理解 空間転移 往年の力
私が触れると鑑定の宝玉上に数値や文字が表示される。
なんだ。下3桁しか表示されないらしい。これなら、速度が少し高いだけで何の問題もなさそうだ。
私は素早くサイコキネシスを発動すると、スキルの『往年の力』だけを非表示にした。
次々と鑑定していく生徒たち。
そんな中、クラスで図書委員を務める関谷香織さんが少し変わった数値を出した。
名前 関谷(セキヤ) 香織(カオリ)
適性 フリーター
Level 1
体力 3
力 3
速度 15
魔力 19
魔力適性 無色
スキル 言語理解 成長
クルドニウスは微妙な表情でいった。
「しっかり、訓練していれば力や体力は伸びるし、スキルも増えることがある。まあ頑張りなさい。」
次々と測定を終え、いよいよ異世界の戦士君の番となる。
見た目は黒髪黒眼で日本人として見えなくもないが、明らかに纏っている雰囲気が違う。
まして、一人だけ血濡れの剣に皮鎧姿だ。
クルドニウスは訝しげに戦士君を見つめ、尋ねた。
「そなただけ出で立ちが著しく違うな…」
「はい、演劇部で劇の練習をしていたのでこのようなコスプレの出で立ちで申し訳ありません閣下」
あれっ、日本語で答えている。言語理解の力ではない。明らかに日本語だ。
異世界も日本語なのだろうか?
戦士君は特に怪しまれることもなく鑑定の宝玉に触れる。
名前 霞寺(カスミジ) 時祐(トキヒロ) ジェフリー・ミスト
適性 演者
Level 1
体力 003
力 003
速度 002
魔力 001
魔力適性 無色
スキル 言語理解 複写 収納
「これは……
長いお名前ですな……
まあ、収納持ちですからステータスが低くても重宝はされるでしょう。
複写というスキルは初めて見ましたな。
何か有用なスキルであればいいですな」
クルドニウスはステータス表示の低さに興味を失った様子だ。
しかし、私は彼のステータスの十の位(くらい)と百の位の『0』が気になる。
私のステータスも表示限界を超えていた数値は同じようなこといなっている。
ということは剣士君もステータスが1000以上ということだ。
また、彼の名前が日本名の後に明らかに違う名前がくっついていることに違和感を感じた。
いったい彼は何者なのか。
鑑定が終わり、私たちはこの国の王と謁見することになった。
前いた世界の王様がとてもフランクで気安い性格だったので初見からその違いに驚いた。
国王は眼光の鋭い60歳くらいの人物だ。
戦士なのだろうか、体格もよく威厳がある。
私たちは片膝をついて頭を垂れるように促される。
「異世界の勇者たちよ。
このたびは大義である。
代はグレゴリアヌス・ラトランド9世 新生ラトランド王国25代目国王である。
昨今我が国は、領内の魔物が増殖し、周辺は我が国特産の金鉱石やダイヤモンド原石を狙っている大規模国家に囲まれているという窮状にある。
そなたたちは一日も早く成長し、先に召喚した勇者部隊とともにこの難局を打開して欲しい。
以上である」
なんと言うことでしょう。
魔物と戦うのはいいが、人と戦争させようというのでしょうか!
極悪人や侵略者には容赦しない私だが、『人さらい同然に召喚された国のために人を殺せ』と言われれば、『冗談ではない』と答える。
つまり、兵士の代わりに戦争せよと言うことか?
これは早いところ逃げ出すのが吉であろう。
自分一人なら簡単だが、とりあえず生徒をどうやって逃がすかが問題だ。
大変な世界に来てしまった。
私は生徒の安全確保のため、しばらくは情報を収集しつつ様子を見るしかなさそうな現状に、ため息をついた。
【次話は1時間後の本日18時更新予定】
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