第7話 カスミ先生の失敗 (カスミ視点)


 それは、私の政治経済の授業中に起こった。

 私は担任をしている2年D組でいつものように自分の専門の経済学を教えていたのだ。


 神奈川国立大学を出て3年、晴れて教員採用試験に合格し、今年から担任を持たせてもらった私は、手を焼く生徒を複数抱えながらも何とか学級を運営し、いよいよ一年の仕上げに入るという3学期のはじめの頃だった。


 突然教室の床に七芒星が浮かび上がり、教室全体が白く輝いたのだ。

 私たちは光の粒子になって徐々に教室から消え始める。

 まずい、せめて生徒だけでも助けないと。


 焦る私は久しぶりにかなりの力を込めて床を殴る。 

 魔方陣を壊そうとしたのだ。


 しかし、壊れたのは木の床だけだった。

 地産地消運動の一環で、地域の間伐材を使ってリニューアルしたばかりの床板1枚をへし割ってしまったが、魔方陣は健在である。


 こうなったら躊躇している暇はない。

 私は本当に久しぶりだが、全力でサイコキネシスを発動する。


 そう、私はとあることがきっかけでESPを身につけている。

 不可思議な力には不可思議な力でしか対抗できないかも知れないと考え、魔方陣を吹き飛ばすべく、魔方陣の模様に対してサイコキネシスを発動したのだ。


 私のサイコキネシスを受けた魔方陣は一瞬揺らいでどこかに飛んでいったように感じた。

 既に空間が歪み、通常の日本の存在領域からはみ出していたのだろうか。消し飛んでいく魔方陣と相変わらずそこに残る魔方陣の両方が見える。

 失敗だ。

 魔方陣は分裂しただけで、私たちの状況に変化はない。


 分裂し、私のESPで吹き飛んだ魔方陣は、うっすらと透けて見える戦場らしき世界へと向かい飛んでいく。


 その世界では今将に二人の男性が剣で果たし合いをしていた。

 一人は剣士風、もう一人は耳が長く肌が薄紫色でまるで異星人のような顔つきだ。


 異星人風の男の剣が空を切り、剣士風の男の剣が相手をとらえた瞬間、私が消し飛ばした魔方陣が剣士風の男の背中に張り付いた。


 剣士風の男も白く光り始め、徐々にその世界から離れて、私たちが向かっている時空へと飛ばされはじめる。


 やってしまった。

 ゴメン、巻きこんだ。

 後で謝ることにしよう。

 ゆるしてくれるだろうか?


 そんなことを考えていると私たちは宮殿の広間のような場所に立っていた。

 とりあえず現状を確認すべく周囲を見回す。


 周りには、私のクラスの生徒39人と私が巻きこんだらしい異世界の戦士風の男が立っていた。

 私を入れて41人が召喚されたようだ。


 異世界の戦士さんごめんなさい。

 私は心の中で謝りながら、いつか本当に声に出して謝りたいものだなどと考えているとえらそうな男が私たちの正面に立った。








【次話は本日夕方17時更新予定です】

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