第4話 モテ期到来? (トキヒロ視点)


 翌日から俺たちの訓練が始まった。


 俺は、状況を見極めるまでは能力を隠し通すつもりだ。

 剣を振るスピードはあえて周りより遅くし、魔法も全く発動させていない。


 いや、厳密には発動させている。

 召喚前の世界にあった重力制御系の魔法で装備の重さを実際よりもかなり重くしている。

 この魔法で剣を重くしていることもあり、俺の剣を振る様子は演技なしのヘタレっぷりなのである。

 上段に振り上げただけで、あまりの重さに腕がぷるぷるするのだ。


 俺のあまりのヘタレっぷりに、指導の騎士が業を煮やし俺から剣を奪い取ろうとする。

 まずい。

 今あの剣は重力魔法で力8000越えの俺が持ってもぷるぷる筋肉がけいれんするレベルだ。

 いくら騎士が鍛えているとは言え、支えきれるとは思えない。


 急いで魔法を解除しようとしたが、不意を突かれたせいもあり、間に合わないうちに俺は剣を奪い取られた。

 奪い取った騎士は右手一本で剣を支えきれるはずもなく、剣と一緒に右手が床に落下する。

 落下する剣に引き摺られた騎士は、剣を握ったまま前につんのめってこけた。

 しかし、それでも剣を離さないとはたいした根性だ。

 よく見ると重たい剣と訓練場の床に指を挟まれて動けないようだ。


「すいません!」

 俺は、慌てて魔法を解除する。


「???」

 急に軽くなった剣に騎士が戸惑っている。


「力300を超えるこの俺が支えきれないとは……

 しかし、今は普通の鉄の剣だ。

 いったい何だったんだ?」


「はははっ……

 騎士様は力持ちですね。

 ところで、普通の人は力がどれくらいなのですか?」


 この際、ついでに聞いておこう。

 俺の質問に騎士は気軽に答えてくれた。


「普通の大人は力30くらいだろう。

 鍛えていれば100から200くらいある奴は結構居る。

 伝説の勇者クラスになると1000を超えていたというが、俺はまだ鑑定の宝玉の表示限界を超えた奴は見たことがないな。」

「そうですか……

 教えていただけてよかったです。

 俺も早く鍛えて人並みにはなりたいと思います。」

「そういえば、体力や力が3しかなかった奴が召喚された中にいたと言うが……

 まさか……」

「たぶんそのまさかです……」

「そうか……

 めげずにがんばれよ……」

「はい……」


 騎士はかわいそうな者を見るような目つきで俺を励ますと他の高校生の元へ去って行った。 



 昼食の後の休憩は結構長めだった。

 食事時間を入れておよそ2時間ある。

 この世界の人はどうも昼寝をしてから午後の仕事に入る習慣らしい。


 俺は前世でも召喚前の世界でも昼寝の癖はなかったので、情報収集に城の書庫を訪れた。

 蔵書の数はとんでもない数だ。

 さすがに一国の中心たる王城の書庫である。


 この国の文字を読めるか不安だったが、背表紙のタイトルを見る限り言語理解のスキルは文字にも機能しているようで問題なく内容がわかる。


 早速歴史や地理の本を探し、この国や周辺の国について知識を仕入れる。


 休憩も終わりに近づき、午後の鍛錬に参加しようと書庫の出口に向かったところで、小柄な眼鏡っ娘にばったり会った。


「あっ、こんにちは……

 カスミジさんでしたよね?」

「こんにちは、カスミジで合っています。

 よく覚えていましたね。

 えっと、セキヤさんでしたっけ?」

「はい、カオリで結構ですよ、カスミジさん」

「それなら俺もトキヒロでお願いします、カオリさん」

「わかりました。

 あの、トキヒロさん、もしよかったら午後の訓練の後でお話ししませんか?」

「えっ、俺とですか?

 かまいませんが、どうして俺と?」

「それは、また後でお話しします。

 それじゃあ約束ですよトキヒロさん」

「はい、分かりました。

 急がないと訓練に遅れるかも知れませんね」

「ええ、急ぎましょう」


 俺たちは午後の訓練が行われる訓練所へ向かった。




 声をかけられたため何となく意識してしまい、訓練場でカオリさんの方を見てしまう。

 すると、向こうも同じなのか何度か目が合って慌ててそらした。

 それにしてもカオリさんも鑑定の宝玉で表示された力や体力が俺に次いで低かったため、どちらかというと剣の練習のときは放置されている。

 まして、魔力無色なので俺同様、魔法の講義は隅っこで聞いているだけだろう。


 俺の場合は、本当は聞くまでもなく使えるので、他の連中が指導されているのを見て召喚前の世界とこの世界の魔法の違いを観察している。

 俺の見立てでは、1種類の属性魔法しか使えないことを除けばあまり差がないように見える。


 そういえばカオリさんも無色だったが、もしかすると俺同様複数属性を持っているから無色なのかも知れない。

 それなら魔法が使えないと思い込んでいるカオリさんに教えてあげるべきだろう。

 せっかくお誘いを受けたのだから、訓練後に会ったときに話してみよう等とこのときの俺はのんきに考えていたのだが、事態はこの後、思っても見なかった方へと転がり始めることになる。






【次話は1時間後の8時に更新予定】

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