第5話 これはデートでしょうか? (トキヒロ視点)
二時間ほど訓練すると、この日の訓練は終わった。
その後は二時間ほど自由時間らしい。
水浴びして汗を流すのもよし、街を散策するのもよし。
といっても無一文の俺たちは、買い物などできないから寂しい限りなのだが……
そんなことを考えて歩いていると、訓練場の出口付近でカオリさんが待っていた。
「お待たせしました、カオリさん」
「いえ、私も今来たところよ。
それじゃあどこか二人っきりになれる場所に行きましょうか」
おっと!なかなか大胆なお誘いだ。
しかし、『これはもしかして惚れられたか』などと自惚れたりはしない。
なぜなら、カオリさんの表情は恋する乙女と言うより決闘に向かう戦士という感じで、緊張感と決意に満ちた顔つきだったからだ。
兵舎の裏庭から城の西門に出て、俺たちは商業地区の外れまで歩いた。ここから先は住宅街のようで、人通りもまばらになる。
寂れた公園の一角に置いてあるベンチに腰を下ろす。
「単刀直入に聞くわ。
トキヒロさん、あなたは何者なの?」
「それは……
どういう意味でしょう?」
「正直に言うと日本人はおろか地球人かどうかも疑っているわ。」
なかなか鋭い、観察眼をお持ちのようだ……
「なぜそう思ったんですか?」
俺は聞いてみた。
「肯定も否定もしないのね……」
カオリさんは警戒を強める。
「答えはYESでありNOでもあるからですよ。
とりあえず俺に敵意はありませんから……」
しばらく考えてからカオリさんは口を開いた。
「敵意はないというのは信じていいのね」
「ええ、信じてください。」
「それもそうね。
ここまで話して敵意があれば戦闘になっているはずだわ」
「戦闘に?」
カオリさんのこの発言には2つの意味が含まれているのを感じる。
一つは俺が戦闘力を有していることをカオリさんが知っているということ。
鑑定の宝玉に表示された俺のステータスが軒並み一桁だったにも関わらずだ。
もう一つは、俺のステータスが表示限界を振り切れていることを承知で、俺と戦闘になり得るほどの戦闘力をカオリさんも持っているということだ。
俺は、カオリさんに逆に質問した。
「俺が、何者なのか教える前に、カオリさんも本当のことを話していただけますか?」
しばらく考えてカオリさんが話し始める。
「そうね、その方がフェアよね。
私は二度目の召喚なのよ。
以前こことは別の異世界で勇者をやらされていたわ。
もしかしてあなたもそうなの?」
驚いた。
カオリさんが元勇者だったとは……
そういうことなら俺も正直に話すことにしよう。
「俺は、少し違いますが似たようなものですね。
転生した先で勇者パーティーの魔法剣士をしていました。
ここには転生後の世界から直接召喚されています」
カオリさんは少しほっとしたような表情になる。
「それで納得がいったわ」
逆に俺から聞いてみることにした。
「カオリさんはどうして俺に疑問を持ったんですか?」
「あなたが現れたときの出で立ちと剣についていた血よ。
あれは以前召喚された世界の魔族の血に似ていたわ。
それに私、鑑定と偽装を持っているのよ。
今はステータスの表示を偽装しているわ。
もちろん鑑定の宝玉には偽装したデータを表示させたわ。
そして、鑑定の力であなたのステータスが私の真のステータスと互角のものだと言うことも分かったのよ」
「なるほど、俺のステータスを鑑定したんですね。
それに、剣の血を見抜いたのはさすがです。
あれは召喚される前の世界の魔王の血です。
しかし、カオリさんが居た世界には鑑定や偽装のスキルがあったんですね。
できればそのスキルで今の俺を鑑定してもらえますか?」
カオリさんは少し不思議そうな顔をして俺を鑑定する。
「あら、前はなかったのにどうやら偽装を覚えたようね。」
「ええ、隠蔽と偽装を覚えることができました。
今は隠しています」
「あなたも相当に特殊なスキルを持っているようね」
「はい、この世界に召喚されたことで複写というスキルを覚えました。
カオリさんはどうですか?」
「私は、成長というスキルを覚えたわ。
まだどう使うかは分からないけど、たぶん使えなくても今持っているスキルで対応できると思うわ」
さすが元勇者だ。
それから二人でしばらく情報を交換した。
カオリさんは召喚された世界でかなりひどい目に遭い、何とか送還魔法を実行できる環境を自力で整えて日本に戻ったと言うことだ。
日本に戻ると異世界で戦っていた3年間という時間はなかったことになっており、自分の見た目があまり変わっていなかったこともあり、そのまま学校生活を続けたと言う。
強さを隠して生活するのに疲れた頃に、再びこの世界へと召喚された。
前回の経験から、戦争や政争の道具にされることを嫌って、ステータスを偽装したとのことだ。
前の世界から日本に帰るときの方法で、ここから帰ることができないか聞いてみたが、条件がそろわないと試せないらしい。また、その条件というのがかなり厳しいので、早々に試せるものでもないという。
まあ、最後の手段として、カオリさんが前の召喚時に試した方法も視野に入れておく。
俺たちは今後の方針について確認した。
「それじゃあ、状況を冷静に分析しながら、この国の思惑に乗るか、この国から出るか決めるということでいいな。」
俺はいつの間にか平口になっていた。
「ええ、もしこの国が道義に悖(もと)るような国なら、同志を募ってここを出ることもね」
「ああ、残念ながらその確率は高そうだがな……
それに、俺たちの知らないスキルや魔法がある可能性もある。
情報収集は特に力を入れたい」
「了解したわ。
それじゃあ、毎日訓練が終わったらここに集合でお願い」
「わかった。
カオリさんも情報収集の時、変に疑われないように気をつけてな」
「ええ。
それから、名前は呼び捨てでいいわ。
これからはカオリって呼んでね」
「じゃあおれもヒロで頼む」
俺たちは簡単に今後の方針を決めると兵舎へと来た道を引き返した。
【次話は1時間後の9時に更新】
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