第2話 転生からの召喚(トキヒロ視点)


「よくぞ来た、勇者たちよ。」


 真っ白かった視界が再び色彩を取り戻すと、そこは荘厳な建物の中だった。


 俺の周りには明らかに見覚えがある服装をした同世代の男女が大勢、状況を理解できずにきょろきょろしている。


 全員男子は学生服、女子はセーラー服、およそ40人ほどの高校生だ。

 一人だけ、スーツの若い女性が混じっているがおそらく巻きこまれた教員だろう。



 その中で明らかに俺だけが浮いている。


 俺はというと魔王の血濡れの剣をひっさげて、金属の胸当てと革の鎧。

 完全に冒険者の装いだ。


 召喚。

 死ではなく召喚されたのか…

 俺の出で立ちは魔王を切ったときのままなのだ。


 俺の頭に前世のライトノベルの知識がよみがえる。


 これは明らかにクラス召喚だ。


 しかし、何故俺がここにいる。


 クラス召喚に巻きこまれるような場所にはいなかったはずだ。


 混乱する俺たちに向かい、最初に声をかけてきた男が再び口を開く。

「私は宮廷魔術師長のクルドニウス・マーリニアだ。

 そなたたちにはこれから、我が国を脅かす者どもを倒すのに協力してもらう。

 まずは自分たちの能力を確かめ、装備を整えるのだ。

 さあ、あの壁際にある鑑定の宝玉を順番に使うがよい」


 そのとき、お約束のように召喚された集団の中から正義感の強そうな少年が声を上げる。

「ちょっと待ってくれ。

 いきなりこんな所に連れてこられて戦ってもらうとか言われても、ハイそうですかと言える訳がない。

 俺たちは平凡な高校生だ。

 戦いなどと言われてもできるはずがないじゃないか。」


 クルドニウスはなれた様子でそれに答える。

「君の意見はもっともだが、君たちには選択の余地はあまりないのだ。

 私が行使した召喚の魔法は、一方通行だ。

 君たちには気の毒だがこの世界で生きていくしか道はない。

 もちろん、王宮から出て自分で生活することもできるが、この世界のことが全く分からない状況でここを飛び出して生きていけるのかね。

 出て行くにしても、我々とともにある程度行動し、この世界が分かってから出て行けばいい。

 それに、戦えないと言うが、君たちには召喚によって次元の壁を越えるときに、必ず何らかの能力が付与されている。

 自分の能力も知らずにこの場を飛び出すのはお勧めしないね」


 手慣れすぎている。

 俺はそう感じた。

 こいつは何度もこんな場面を体験している。


 しかし、クルドニウスが言うことももっともだ。

 ここは前世でも今世でもない。

 この世界のことは2つの世界で生きたことがある俺にも分からないのだ。


 俺が考えている間に、正義感の強い高校生も決断したようだ。

「くっ仕方ない。

 しばらくはあんたたちの言うように行動しよう」


 そう言うと自ら鑑定の宝玉へ近づき触れた。


 名前 大塚(オオツカ) 正義(マサヨシ) 

 適性 勇者

 Level 1

 体力 10

 力 10

 速度 10

 魔力 10

 魔力適性 赤色

 スキル 言語理解 魔法剣 ヒーリング


 鑑定の宝玉の上に文字が浮かび上がる。

 知らない文字かとも思ったが、何故か知っている文字に見え、俺にも読めた。


「おお、素晴らしい」

 クルドニウスが声を上げる。

「レベルが上がれば相当に強くなるだろう。

 勇者は成長力が高いからな。

 さあ、次の者、」


「ちょっとまってっくれ、魔力適性の赤色って何だ?」

 マサヨシが声を上げる。


「それは火炎系統の魔法に適性があると言うことだ。

 青なら水、黄色なら雷、緑なら風、茶色なら土という具合だ。

 魔法が使えない者は色なしだ。

 この世界で魔法を使える者は、この五つのどれかに適性を持っている。」

 クルドニウスがめんどくさそうに説明し、次の者の鑑定に移ろうとする。


「複数の属性を持つ者はいないのか?」

 マサヨシが食い下がる。


「複数属性は今のところ確認されていないが、魔力を使える者なら共通して使える魔法は存在する。

 たとえば私が使った召喚魔法だ。

 魔方陣に自らの魔力を通すことで魔法が発動する。

 もう、いいかね?」

 これで説明は終わりだといわんばかりにクルドニウスが次の高校生を鑑定の宝玉へと誘(いざな)う。


 次々と宝玉に触れる生徒たちの様子を見ていると、どうやらステータスの各数値は5から10の間くらいで、全員スキルの言語理解は持っているようだ。

 回復系のスキルを持っている者も目立つ。

 スーツの女性は大人だけあって生徒より高い数値だ。


 そんな中で小柄な眼鏡をかけた少女が少し変わった数値を出した。

 名前 関谷(セキヤ) 香織(カオリ) 

 適性 フリーター

 Level 1

 体力 3

 力 3

 速度 15

 魔力 19

 魔力適性 無色

 スキル 言語理解 成長


 職業がフリーターと意味不明である。

 更に、速度と魔力が異常に高いが、魔法の適性が無色なのだ。

 クルドニウスは残念そうな顔をしていった。

「魔力は高いが、残念ながら適性魔法がない。

 しっかり、訓練していれば力や体力は伸びるし、スキルも増えることがある。まあ頑張りなさい。」


 次々と測定を終え、俺の番となる。

 今世の俺は黒髪黒眼で日本人として見えなくもない。

 しかし、一人だけ血濡れの剣に皮鎧姿だ。


 クルドニウスは訝しげに俺をのぞき込む。

「そなただけ出で立ちが著しく違うな……」


「はい、演劇部で劇の練習をしていたのでこのようなコスプレの出で立ちで申し訳ありません閣下」


 俺はとっさに嘘をついた。言語は敢えて前世の日本語を選択して話す。

 俺だけ違う世界から召喚されたとは言わない方が良さそうだからだ。

 どうも、この召喚主は信用できないような気がする。

 

 召喚された高校生の連中も、幸い演劇部員はいないのか、俺の言葉を疑っている者は居ないようだ。

 学年が違えば知らないのが当たり前で、むしろ学校の生徒全員を覚えていることの方が異常だ。

 きっと、俺を他学年の生徒ぐらいに思ってくれたことだろう。


 俺は鑑定の宝玉に触れる。


 名前 霞寺(カスミジ) 時祐(トキヒロ) ジェフリー・ミスト

 適性 演者

 Level 1

 体力 003

 力 003

 速度 002

 魔力 001

 魔力適性 無色

 スキル 言語理解 複写 収納


「これは……

 長いお名前ですな……

 まあ、収納持ちですからステータスが低くても重宝はされるでしょう。

 複写というスキルは初めて見ましたな。

 何か有用なスキルであればいいですな」

何か言い方が投げやりだ。

 俺のステータスのあまりの低さにクルドニウスは興味を失った様子だ。


 それにしても、このステータスには違和感を禁じ得ない。

 今世の召喚前の世界はステータス表示などなかった。

 しかし、俺はあらゆる魔法を使いこなし、魔王すら切ったのだ。

 このような低いステータスなどあり得るのだろうか?

 それとも召喚によって一旦強さまでリセットされてしまったのだろうか。

 何にしても疑問が多すぎる。

 追々(おいおい)確かめて行くしかないだろう。


 状況が分かるまでは、召喚前の俺の力がばれないように秘匿することにしようと思う。

 最も、あのステータスだ。

 召喚前の力は失っている可能性すらある。





 鑑定が終わり、俺たちは召喚の間から謁見の間へと通され、国王と会うことになった。


 国王は白髪でカリスマのある初老の男性だ。

 眼光も鋭く、頭も切れそうだ。

 大柄で鍛えられた筋肉を持ち、この人が騎士団長だといえば10人が10人とも信じるであろう肉体を持っている。


 俺たちは片膝をついて頭を垂れるように促され、とりあえずその通りにする。

「異世界の勇者たちよ。

 このたびは大義である。

 我はグレゴリアヌス・ラトランド9世 新生ラトランド王国25代目国王である。

 昨今我が国は、領内の魔物が増殖し、周辺は我が国特産の金鉱石やダイヤモンド原石を狙っている大規模国家に囲まれているという窮状にある。

 そなたたちは一日も早く成長し、先に召喚した勇者部隊とともにこの難局を打開して欲しい。

 以上である」


 話が長くないのはいいが、内容は戦慄すべきものであった。


 つまり、魔物はいるは、戦争はしているは、何度も勇者召喚しているは……

 ということなのだ。


 おそらく通常の国力だけでは負けそうになり、過去に召喚した者たちだけでは対処できず、異世界から俺たちを追加で召喚したということだ。

 下手をしたら死んだ奴の補充かも知れない。


 えらい世界に来てしまった。


 この国が悪いのか、周辺の大国が悪いのかは情報不足で判断できない。


 とりあえず命の危機が平然とそこら近所に転がっているということだ。


 召喚前の世界も命の軽い世界だと思ったが、魔物が強力であったために、人と人の国で戦争しているということはなかった。


 何か世界が変わるたびに危険が増しているような気がする。

 どうしてこうなった……






【次話は1時間後に掲載予定】

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