巻きこまれ召喚!? 未来世界の次は異世界ですか???

安井上雄

第1話 魔王討伐(トキヒロ視点)



 切った!


 確かにそう感じた。


 そう、俺は魔王を切ったのだ。


 これでこの世界は平和になる。


 そう確信した瞬間、俺の体が光を放ち消えはじめる。


 俺をサポートしてくれていた5人が目を見開いてこちらを見ている。


 ウィザード、ヒーラー、バルキリー、モンク、アーチャーの五人だ。


 振り返ると魔王の体は崩れ去り、黒い液体となって魔王城の床へとしみこんでいく。


 魔王直属の強力な魔族たちも既に倒した。


 ここで俺がいなくなっても仲間たちは無事に帰還できるだろう。


 よかった。




 原因は分からないが、今、俺は消えようとしてる。


 指先から光の粒となって肉体が崩壊しているのだ。 


 勇者が魔王と対をなす存在であるのなら、その一方の死は他方の死と同義であるとでも言うのか。


 自分に残された時間がもうないことは本能的に理解できる。


 おそらく、この体の崩壊は回復魔法でも止めようがない。


「みんな、今までありがとう。

 あとはたのむ……」


 5人に向かって最後の言葉を発すると、俺の視界は真っ白にフェードアウトした。


 最後に見えたのは俺に向かって叫びながら駆け寄ろうとする5人の仲間だったが、彼らの声を聞くことはできなかった。





 これが死か……


 何もない白い空間……   


 漂う浮遊感……




 それでは、これを死だと考えているのはいったい誰だ。


 死しても尚、魂で思考できるとでも言うのか。




 肉体を意識できない真っ白いどこかを漂いながら、俺は思考だけが可能な状態に置かれる。


 前世で死んだときとはかなり感覚が違う。


 そう、実は俺は転生者なのだ。

 いや、今世でも死んでしまったであろう現状では、転生者だったのだというべきか。


 俺の前世は日本という国の高校生だった。

 どこにでもいるような平凡な17歳、地方都市でそこそこの高校、成績は中の上、スポーツは剣道をやっていた。

 修学旅行で人生初めてのスキーに北の大地へと出かけたとき、スキー場のゲレンデで震度7の地震に見舞われ、雪崩に巻きこまれたところで、意識を失った。


 前世の記憶に目覚めたのは、今世で3歳になったときだ。


 田舎の農家の三男に生まれた俺は、兄たちと一緒に近くの山へと出かけ、夕食のキノコを物色しているときに地震が起こり、斜面を滑り落ちて落ち葉に埋もれた。


 山で地震というよく似たシチュエーションが引き金となったのだろう。

 気がついたときの俺はジェフリー・ミストであると同時に霞寺時祐(かすみじときひろ)でもあった。


 前世の記憶を取り戻した俺は、昔よく読んでいたライトノベルのような状況に一喜一憂した。

 剣と魔法の世界で活躍できるのではという期待と、命の軽いこの世界で無事でいられるのかという不安。

 俺は、家の手伝いをする傍ら、自らを鍛えることをはじめた。


 前世の知識を使い、体の成長に無理がいかないような筋トレを行い、村の爺さんたちに魔法を習った。そう、転生した世界には魔法があったのだ。

 4歳の時、山で拾ってきた棒きれで毎日素振りしていたら、冒険者をしていた隣の爺さんに感心され、剣を習うことになった。


 村の周辺で大人たちに混じって魔物狩りに参加するようになったのが10歳のときだ。

 12歳では戦力として認められ、14歳で村一番の腕前となっていた。


 そして、15歳の時、100年ぶりに魔王が発生した。


 この世界は邪気が一定以上溜まると魔物が発生し、魔物が一定上の数まで増えるとその中から魔王へと進化する個体が現れる。

 魔王は強大で、配下の魔族を使役して人を襲い、魔物の領域を広げようとする。

 今回の魔王もその例に漏れず、西の領域から徐々に勢力を拡大してきた。


 各国は、魔王の勢力に対抗するため腕に覚えがある者を招聘し、魔族の討伐軍をつくる。

 俺の村にも動員がかかり、俺は村の代表3名に選ばれた。


 首都に招聘された俺は、剣も魔法もそこそこ使えることから魔法剣士としてパーティーを編成させられた。

 魔法と剣は使えるが何故か魔法剣は使えない。あくまでも魔法は魔法として剣術は剣術として使う。

 いわば魔術師、兼、剣士という職業だ。


 この世界の魔族に対抗する討伐軍は、基本的に5、6人のパーティーを組んで、そのパーティーが更に集まり部隊を編成する。

 パーティーは攻撃と回復、物理攻撃と魔法攻撃などのバランスがとれるように、国の方で調整して編成され、よほどチームワークがとれない限りメンバー変更はない。


 俺のパーティーはウィザード、ヒーラー、バルキリー、モンク、アーチャーと俺の六人だった。同じ村出身の残り二名とは別パーティーになった。

 

 俺たちはコンビネーションの取れた攻撃力の高いパーティーだった。


 魔族討伐で群を抜いた成果を残し、いつの間にか俺たちは勇者パーティーと呼ばれるようになっていた。


 そして、17歳の時、俺たちを含む討伐軍が魔族の領域深くに到達し、激しい戦闘の末、遺跡の奥でついに魔王と遭遇したのだ。


 こいつさえ倒せばこの戦いは終わる。


 俺たちは持てる力の全てを出して戦った。

 他のパーティーが俺たちの後ろをかため、魔王以外の魔物や魔族の相手をしてくれている。

 いまなら、魔王に増援はない。


 魔王直属の手強い魔族どもをパーティーメンバーが押さえてくれている間に、俺は魔王と一対一で対峙した。

 遠距離からの魔法の打ち合い。

 剣士タイプの魔王にしては魔法もかなり強い。


 火炎を火炎で、雷撃を雷撃で相殺しながら接近し互いに必殺の一撃を繰り出す。

 上段から一気に袈裟切りを仕掛けてきた魔王に対し、俺は左へ回避しつつ下段から切り上げた。


 俺の剣は魔王に届き、魔王の剣は空を切った。

 そして、魔王は黒い粘液に、俺は光の粒になったのだ。







【次話は23時に更新予定】


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