第3話 マイペースな彼

西軍の大将としての仕事がやってきた。


しかし、記憶がない今はバルトが西軍も指導してくれている。


「まぁ、ぼちぼちな」


「ありがとう」


正直、邸からは一歩も出たくはなかった。


しかしながら、ノアの脅しに屈するのも嫌だ。


それにノアにただ殺されるのを待つより、自分を守る勢力を固めて保持し続けるのが必要だ。


私に西軍大将としての復帰を望む声も多い、このポジションをなくす事はノアに対抗する力を無くすと同じ。


だから、私がこのポジションを奪われないために早くから復帰する必要があった。


「バルト、リリアナよろしく頼む」頭をさげ、アズールとティール国合同の戦略会議にノアが加わった。


「今回、アズール軍にはこちらで待ち構えていただくだけでいいです」


「挟み撃ちね。でも、俺らも動いた方が速いんじゃねぇの?」


バルトの言葉にノアが私を見た。


「彼女、記憶がないのに指揮を任せるおつもりですか?」


「戦場にいけば思い出すもんもあるだろ。この前なんか乗馬もしたし、トラウマは無さそうだ」


「彼女のかわり…」


「こいつの変わりなんていねぇ!待機なわかったわかったじゃあな」


バルトが出ていったのですぐ後を追った。


「バルト、冷静に」


「何が冷静にだ!動くなって信用してないんじゃねぇか!アズールも俺達も」


「…」


バルトとわかれ、作戦会議テントに戻るとノアが1人地形図を眺めていた。


「リリアナ座れば?」


「はい…」


果実酒を注ぎ、私に差し出した。


「毒ははいってない」


確かにここで毒殺は無理だ。


集まったアズール軍が大勢集まっているからだ。


私がそれを口に含むとノアは笑った。


「リリアナは一番後ろだ。バルトがたぶんそうさせないとは思うが、ここの待機箇所は投石の危険もある」


「私を殺す絶好の機会だと思いません?」


「あぁ絶好の機会だろうな。君を連れてくるなんてどうかしているなバルトって奴は」


「早く記憶を取り戻して欲しいんでしょうね」


「あいつが居なければ、君は今も屋敷のベッドの上だ。余計なことを」


「私が行きたいと言ったのです」


「何!?」


「ただ黙って貴方に怯えるのはまっぴらごめんです」


「ここが合同の集まりじゃなかったら君の首を斬っているところだ」


果実酒を2・3杯飲んだところで記憶を失った。


ーーー…………


次に目が覚めると、同じベッドで隣にはノアが眠っていた。


しっかり抱き合って寝た事実に赤面しながらも彼の腕から逃れようと動く。


「んんっおはよう…」


彼は途中起きたかと思えば、さらにきつく抱き締めて深い眠りに落ちた。


にしても、この位置はヤバイ。


胸に彼の頬がのっている。


「ひゃあ!?」


急にムクッと起きた彼は片手で私を抱き抱えて立ち上がった。


「危ない窒息させる気か?」


「貴方が離してくれなかったんです!」


「おはよう」


「おはようも2度目です」


「そうか」


ゆっくりと私を床におろし、顔を水ですすいだ。


「ノア、私のテントに運んでくれても良かったのになんでそうしなかったのですか?」


「君のテントは危ない」


「?」


ささっと着替えを済ませ、朝食のため席に着いた。


ノアは相変わらずマイペースに剣の手入れをし始めた。


仕方がないので、1人で先に食事を始めた。


そうだバルトの所にいかないと…、そう思った矢先にバルトがテントに入ってきた。


「リア!なんでこいつと同じところにいんだよ!?」


「一緒に寝たからだ」しれっとノアが答えた。


「はぁぁ!?」


「女1人テントだなんて危険すぎる」


「過保護にもほどがあるわ」


「そりゃ一般人にも等しいからな」


パンを一つ加えると、ノアは出ていった。


暫くして、ノアは先陣で早めに出立したとの知らせが入った。


「アイツ!俺らも陣形かためろっ西軍は東軍後ろだ」


慌ててたバルトが軍に指揮をだす。


「敵に悟られないように味方にも言っておかなかったんでしょうか?」


「そういうことだな…っち狩りに行くように飯パンだけって…相手なめすぎだろ」



ノアの軍が敵を全て制圧し、残党すら残さなかった。


終わったのは昼前だった。


帰って来たノアは無言で私の前に進んできた。


「怪我したんですか?」


「これ返り血。君怪我してないよね?転んだり落馬したり、トゲが刺さったり」


「ノア、人をドジっ子みたいに言うのは止めて下さいます?」


「おい、過保護終わったんなら…」


「彼女を屋敷まで送り届ける」


そういうと私を馬に乗せ邸に向かって駆け出した。


振り向くと憤慨しているバルトの姿が見えたのだった。

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