250.帝国遠洋海軍基地

 

 巨大蟹モンスターによる襲撃から一夜明け、艦隊は遅れた行程を取り戻すために予定より少し速度を上げて北上していた。


 モンスターによって被害を受けたイージス駆逐艦“こんごう”は通常の航行はできるものの戦闘になった場合満足な艦隊行動をとれない可能性が出て来た為、急遽母港であるキーレ港へ引き返していった。


 その代わりに元々ファルナ港周辺海域で哨戒任務中だった同じこんごう型イージス駆逐艦の“きりしま”が艦隊に加わることとなった。


 艦隊は予定を取り戻すために俺とメリアは二人司令官公室でソファーに優雅なコーヒータイムを過ごしていた。

 飲んでいるコーヒーはブラジル産のアラビカ種の豆を使ったもので、温度が高くなるほど苦みが強くなってしまう為ぬるめの温度にいれてあっさりと仕上げているものだ。


 コーヒーは、煎られた豆を挽きそれをペーパーフィルタとドリッパーを使ったハンドドリップで俺が一から淹れているのだが、これは元居た世界のカフェで俺がアルバイトをしていた時の経験をもとにいれていた。


 そんなもの従者に淹れてもらったものでもいいじゃないかと思うかもしれないが、確かに淹れてもらったものもおいしいかもしれないが、こうやってじっくり自分のペースや雰囲気でやるとまた趣があっていいし、淹れている間に漂うコーヒーの香りはまたいい。


 そうやって淹れたコーヒーを俺とメリアは肩を寄せ合い、まるで仲睦まじい夫婦のように楽しんでいた。


 ただ、そんな和やかな時間は長く続くはずもなく、俺たちのいる部屋のドアがノックされた。


 ゴンゴン!


「どうぞ」

「失礼します!」


 入って来たのはキアサージ艦長のウィンブル・メイ大佐だった。


「どうしたの?」

「はっ!先ほど空母コンステレーション所属の艦載機が哨戒中に艦隊より南西に約50㎞地点に多数の島を発見とのこと!」


 俺はこの後何もないまま出雲国に到達できるようにと思っていたが、どうやらそうはいかないらしい。


 情報によると、艦隊から南西方向50㎞先に多数の島が発見されたということだが、コンダート王国沿岸部からするとそこは南東海域にある場所に位置する。

 この島はすでに昨晩発見されていたようで、一先ず一番近かった空母J・F・ケネディから第41戦闘飛行隊(F-14D)を発艦させ偵察させていた。

 この時、島に擬態していたモンスターと同じかもしれないと仮定して、事前に全艦隊の砲塔やミサイルの照準を合わせておいていた。

 しかし、その航空隊からは5つの大きな島影が確認され、少なくとも前回のような巨大モンスターではないだろうと判断されたらしい。


 そしてメイ艦長は何枚かの写真を俺たちに手渡してきた。


「両陛下、こちらをご覧ください」


 そこには、かなり大きな島が5つといくつかの小さな岩礁のようなところが複数確認できた。

 艦隊から離脱し帰途についているこんごうからもその島影がかなりの至近距離で視認されたいたのでまず間違いがないだろう。

 この写真は、ちょうど今朝島の情報をもう少し低空から詳しく知るためキアサージに搭載しているMV-22オスプレイに乗せた観測員が撮影したものらしい。

 一番巨大な島で沖縄本島より一回り大きいサイズはありそうだ。


「これなら、確実にあのモンスターではないから安心よね、もし本当にモンスターだったらいくらこの兵器があったたとしても太刀打ちできないもの」

「恐れながら、女王陛下これには続きがございまして……」


 するとメイ艦長はさらに写真を数枚手渡してきた。

 そこには人工物と思われるようなものが多数写っていた。


「なんだ、これは?」

「こちらの写真をご覧ください」


 メイ艦長が指さした写真には俺にも見覚えのあるものが写っていた。


「そうです、ここはすでに帝国海軍によって占拠されているようです」


 どうやら見覚えがあったと思っていたのは帝国海軍の旗だった。

 そしてさらに他の写真には帝国海軍の艦艇が停泊できるように整備された港や陸地には帝国海軍か陸軍の竜騎兵隊が発着する航空基地まであった。

 その基地のすぐ近くには原住民のような人達が囲いのようなところに捕らえられているところも写っていた。

 それ以外の場所では原住民のような人々が写真には写っていなかった為、恐らくすべて駆逐されたか捕らえられてすべて本国に奴隷として売り飛ばされた可能性が考えられる。


「こんなところに帝国軍が基地をつくっていたなんて……、今までよく見つけられなかったな」

「ええ、我々としても不覚の一言に尽きます」

「ただ、発見した以上王国に近いこんな場所で奴らを野放しにしておけないわ」


「そうだな、ただ、今この艦隊で攻撃や調査をしてしまうとただでさえ遅れている行程が取り戻せなくなってしまうから、ここは本国に残っている第七艦隊と第二空母機動艦隊を派遣させよう」

「口をはさむようで申し訳ありませんが、それですと海の守りが手薄になりませんか?」


「いやその心配には及ばないさ、というのも、今ちょうど空母機動艦隊を3ユニット編成中でその一ユニットに三つの空母打撃群が含まれていて、そのそれぞれの旗艦に魔術化核融合炉を搭載したニミッツ級航空母艦を充てるからそれだけでも十分な戦力だろう、しかも極め付きはその艦隊内にニミッツ級と同じく魔術核融合炉を搭載したロサンゼルス級原子力潜水艦も配備されているし、元の世界であってもここまでの艦隊なら基本的に相手にしたくないどころか恐怖の対象だろう。さらに沿岸警備隊もいるし、海軍にも沿海域警備軍が配備されているから大丈夫さ、それに海軍航空隊の哨戒機だってあるし、それに空軍だって最近は沿岸上空に常に早期警戒機とか戦闘機で監視しているんだから問題ないだろう」


「ここにいる帝国軍はすぐに叩いておかないと、私たちが出雲国にいる時にこの場所を前哨基地にして攻撃してきたらいくら空母機動艦隊がいたとしても万が一や想定外のことが起きたら危険よね」

「しかも、北の山脈付近には帝国陸軍が何とか戦力をかき集めて、少しずつこちらへの侵攻の準備をしているという情報も上がってきているから、なおさらだな……、すぐに作戦を立案しようか」

「そうね」


 一先ず俺とメリアで作戦の大まかな部分をつくり、その後はヴィアラに任せることにした。


 結果的にこの南東諸島攻略作戦(本国から南東に位置するので南東諸島と仮称する)はまずB1Bによる偵察を行い、空軍のB2やB52等による準備爆撃(原住民になるべく被害を与えないようにする)、その後空母艦載戦闘機(計144機)による精密爆撃を行い、最後は第三海兵遠征軍を上陸強襲させ東南諸島を鎮圧占領することが決まった。




 俺とメリアはその作戦概要を書き終え、まだ部屋に残っていたメイ艦長にそれをヴィアラに送るように伝言した後、再びその部屋には静寂が訪れた。

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