148.イリア銀行アルダート本社2
向かう途中、メリアはというとさっきもらった指輪が相当うれしかったらしく、軽くスキップしながら鼻歌まじりに歩いていた。
目的地であるイリア銀行アルダート本店は、大きな交差点の角に入り口が面しておりレンガ造りの4階建てである。
入っていくと、アメリカの主要都市にあるような大きな銀行を想像させるような広さで、今日は丁度給料日なのか、各窓口に長蛇の列ができていた。
それを横目に、俺たちは銀行の上にあるイリアの執務室へと向かうべく階段を昇り最上階へ。
この時も、俺の周囲と後ろにはピッタリとミスティア第二大隊第一小隊が付いて来ていた為(残りの部隊は周辺警戒部隊と入り口の監視をしている)大名行列とまではいかないがちょっとした行列を伴って歩いていた。
俺は内心、並んでいる人の邪魔にならないかと冷や冷やしていたが、実際はかろうじて列になるぐらいのばらけた間隔で付いて来ているので、そうはならずに済んだ。
そして、再びミスティア達は平民と変わらない姿に戻っているので、周囲の人にはどこかの団体かな?ぐらいにしか思われていないようだ。
そんなことを思っているうちに、最上階のイリアの執務室前までやってきた。
目の前には、国家衛視隊と呼ばれる準軍事組織にあたるところに所属する人たちが警備していた。
「失礼ですが、あなた方はどちら様でしょうか?」
普段着で尚且つ普通の人と変わらない服装で来ているので、当然ながら警備の人は不審に思いこちらに疑いのまなざしとともに近づいてきた。
「こちらにいらっしゃる方は、お忍びで来た、国王陛下と女王陛下です、そして私は後宮警備局所属ミスティア第二大隊大隊長のミセア大佐です、本日はイリア様にご挨拶したくこちらに参った次第です」
俺が口を開く前に、ミセア大佐は俺たちの前に出て警備員にここに来た事情を話してくれた。
「し、失礼しました!すぐにつないでまいりますので少々お待ちください」
普段聞くことがないであろうパワーワードを耳にした、警備員は飛び上がるように返事をしたかと思うと、あわただしく部屋に入っていった。
警備員が入ってすぐ、イリアが直接出てきてくれた。
「国王女王両陛下、わざわざこちらまでご足労頂きありがとうございます、ここでは何ですので、どうぞ中に」
「ああ、じゃあ失礼するよ」
部屋に入ると、そこには質素且つ必要最低限の家具しか置いていないことに驚いた。
イリア曰く、もともと平民の出身なので高級なものなどに疎く、さらに言えば興味がないので本人的には満足しているのだという。
そんなイリアの外見だが、いかにもインテリといった感じの眼鏡をかけていて、セミロングの髪はポニーテールにしてあり淡いピンク色をしている、服装は政府高官についている秘書のような姿をしていてそのぴっちりと着こなしている、そのため女性の省ともいうべき部分が激しく主張していて、これはこれでエ〇い。
「すみません、パッとしない部屋で……」
本人からしたら満足なこの部屋であるが、時折訪ねてくる貴族などには毎回この部屋をみて眉を顰められるのだという。
「いや、個人的にはこの方が落ち着くよ。俺ももとは平民の出だからね」
しかし、もとはといえば俺も平民といえば平民なので、特に何の違和感を覚えなかった。
メリアは王族の出身だが、特段変わった反応を示さなかった。
「そうですが、それなら安心しました。それにしても今日はどういったご用向きで?」
「今日はイリアに直接挨拶しにいきたいって、ワタが言ったから来たのよ」
「えッ!こんな私の為に、ありがとうございます」
「いや、例のこともあったし、お礼もあってね」
「あ、ああ、アレですね?どうやら喜んで頂いたようですね?」
「もちろんさ!本当に助かったよ」
「二人ともなんの話をしてるの?」
「「いや、何でもない」」
途中二人だけがわかる会話になっていたので、メリアは不思議に思い首をかしげていた。
「あらそう?ならいいんだけど……」
「せっかく来ていただいたのでこの機会に色々とお話をしたいところではありますが、なにぶん今日は給料日と決算日が重なっていましてどうしても手が離せない状況でして、恐縮ではありますが……」
「そうだったのね、ごめんなさいイリア、そんなことだからワタ、帰りましょ?」
「忙しいところ申し訳ない、頑張れイリア」
「ありがとうございます、それではまた王宮で会いましょう」
ドンッ!
「キャー!」
帰ろうとした途端、下で何かが起こったらしく、爆発音のようなものと悲鳴が聞こえてきた。
ここまでくると、俺は一種の疫病神ではないかと自分を呪いそうになる。
ただ、ここで起こる事件といえば想像しなくても容易に思いつくのが、“銀行強盗”である
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