149.銀行強盗!

 俺が帰ろうとした瞬間、下では何者かが壁などを爆発させたのか大きな音が鳴った。


 この時も咄嗟に腰につけていたP320に手が伸びて、初弾装填まで終えていた。


 時がたつにつれ、下では悲鳴と襲撃者によるものなのか怒号が響き渡っていた。


 事を重く見た俺は、ミスティア達に緊急出動を命じていた。

 本来であれば、国家衛視隊がすぐに出動してきて事件の対処にあたる。


 しかし、軍の一部でもある衛視隊は戦時徴兵によってコンダート陸軍に人員を割いてしまっているため、来ることには来るのだが、今の衛視隊では重大事件などに対応する能力を有した人材が限りなくゼロに近く、焼け石に水状態になりかねない。


 そんなこともあるので、ミスティア達に今回は事態の対処にあたってもらう。


「ミセア大佐、頼むぞ」


「御意、まずは両陛下から先に避難を開始しましょう」


「いや、俺らより、下にいる人たちをまず優先的に避難させろ」


「しかし!」


「これは命令だ!敵勢力を鎮圧し逮捕しろ!」


「……御意」


 ミスティアからすれば俺たちが最優先防護対象なので、当然俺たちを先に逃がそうとするし、本人たちにとってそれが与えられた任務なので、今の俺の命令には困惑を隠せないでいる。


 しかし俺からすれば、一般市民は衛視隊という普段であれば頼れる味方がやってきてくれるはずなのに、今はそれを望むことは難しい。

 ならば最悪自分の身は守れる手段がある俺らではなく、一般市民を先に救ってあげるべきだと俺は判断した。


 当初、俺の命令に困惑していたミセア大佐とミスティア第二大隊第一小隊であったが、ミセア大佐はすぐに考えを切り替え、各小隊に無線で速やかに指示を出していた。


 しかし、すでに入り口付近で警戒していた第二小隊が敵勢力と交戦を開始し、負傷者が数人出てしまい身動きがとれないようで、第三小隊は現場判断による避難誘導と救護活動をしているので、こちらは戦闘行動を取ることができない。


 ミセア大佐はできるだけ情報を集めてから行動を開始しようと、各隊に現状報告させていた。


「こちら第二小隊、敵勢力は確認出来るだけで30以上!人質多数、怪我人と負傷者多数!こちら側の被害負傷者12名」


「負傷者が出ているだと?なぜだ?」


「見ただけなので定かではないですが、敵の装備している銃に似たような武器による攻撃が原因かと思われます!」


「何だと!?どういうことだ?」

「わかりません!」


「くそ!いったいどうなっている!」


 ミセア大佐は、悪化していく状況や不明確な情報やこちら側に人的被害が出ていることに徐々に怒りとイライラを募らせていく。


 俺とメリアはというと、本来であれば指揮を代わって指示を出してもいいのだが、今回は何も言わず黙って見守ることにした。


「敵の攻撃が一旦やんでいます!……こちらに何かを要求してきているようです!」

「なんて言っている!」


「「我々は崇高なる革命騎士団だ!今こそ腐り果てたこの国を変えるとき!」といっています」


「そんなくだらないことでこんなことを……しばらく言わせておけ、その間に作戦を練る」


「了解!」


 どうやら犯行グループの目的は、俺ら王族を打倒しようとして集まった輩らしい。


 しばらくして、ようやくミセア大佐の元にまとまった情報を整理すると以下の通り。


 1.犯行グループは銀行の正面玄関から見て反対側の壁を爆破して侵入


 2.犯行グループはそのまま店内中心にまで“銃のようなもの”を乱射しながら突っ込む


 3.店内の異変に気付いた第二小隊が交戦開始するも、犯行グループから予想外の攻撃を受け負傷12名に


 4.もう一つの出口前に待機していた第三小隊は、店内からものすごい勢いで逃げ出してくる人たちを懸命に落ち着かせ安全な場所まで誘導、この時に勢い余って転んでしまった人や負傷しながらもなんとか脱出してきた人たちに応急救護活動中。


 情報をもとにミセア大佐は最も適切な作戦がないか考えていた。


「こちらは第三小隊、人質以外の一般人の避難完了!負傷者の護送も開始しています!手の空いたものをすぐに第二小隊の掩護に向かわせます!」


「いや、小隊員がすべて動けるようになるまで待て!」


「了解!」


「第二小隊はいかがしますか?指示を!」


「少し待て!私に考えがある」


 ようやく、名案が浮かんだミセア大佐は得意げな顔でそう答えていた。


「第三小隊は二手に分かれて一方はもう一つの入り口から侵入しやつらに攻撃を加えつつ階段があるところまで押し込め、もう一方は犯行グループが侵入してきたルートをふさいで逃げられないようにしろ!ただし同士討ちには注意しろよ!」


「了解!」


「第二小隊は第三小隊に合流してやつらを階段まで追い込め!」


「第二小隊了解!」


 一時は静まり返っていたが、第三小隊と第二小隊の一斉攻撃によってまた騒がしくなってきた。

 またしばらくすると、第二小隊から通信が入ってきた。


「こちら第二小隊!第三小隊と共同で敵を階段まで追い込みに成功しました」


「良し!よくやった!指示があるまで各小隊動くな!第一小隊、突撃ーー!」


 好機と見た、ミセア大佐は温存していた第一小隊を階段から駆け下りさせ、階段まで追い込まれ身動きが取れなくなった革命何とかとかいう集団の背後に一気に肉薄した。


「動くな!人質を解放しろ!」

「銃みたいなやつを降ろして手を挙げろ!」

「おとなしく降伏しろ!」


 流石に周りを完全に囲まれたこの状況を不利と見たのか、捕まえていた人質を解放し、自分たちは武器を床に捨てこちら側に投降してきた。


「良し!確保ーー!!」


 人質を無事確保したのことが確認された後、降参した犯行グループ全員に向かって隊員が逮捕するために殺到した。


「全員確保完了!!」

「負傷者収容急げ!」



 斯くして、起こるとも思わなかった襲撃劇がミスティア第二大隊の活躍で何とか終息した――。

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