146.指輪


「大変長らくお待たせいたしました国王陛下、“例の物”がご用意できましたのでこちらまでお越しください」

「お、おう、ありがとう」


 正直俺はリチャードが何を用意したのかわかっていないし頼んだ覚えがなかったので、返事があいまいなものになってしまった。

 恐らくこれも、ミセア大佐の差し金なのだろうと、後ろに武装したまま立っていたミセア大佐に顔を向けると、首を横に振るどころか首をかしげていた。

 誰だが知らないがもうすでにここでも話が通っているようだったし、大体何か察しがついていたので“例の物”を見るべくそれが用意してある部屋に向かった。


 するとそこには一対の指輪が用意されていた。


「いかがでしょうか?こちらはイリア様からの依頼によって作成されたこの世に一つだけのペアリングです、材質はオリハルコンによってできていて、ダイヤモンドをところどころに埋め込んでいるので非常に価値の高いものとなっています」


「すごくきれいだ!これは気に入ったよ!……というよりこの指輪はいつ依頼されたんだ?」


「気に入ってい頂いて何よりです。依頼は確かハミルトン奪還作戦後かと思われます、何でもイリア様がおっしゃるには、今度二人のだけの為に極上の指輪を送りたいからとのことだったので」


「そうだったのか、それでこの指輪の値段は?」

「はい、こちらは9千億メルです!」


 リチャードの口からとんでもない額を伝えられ、驚きのあまり俺はキョトンとしてしまった。

 ただ、言った本人さも当然のことのようにさらっと言いのけているが、日本円にしても9億円もするので相当高いことがわかる。


「そ、そんなにするのか……」


「ええ、これを作る為だけに名のある職人ギルドに特注品として頼んだことはもちろん、オリハルコン自体が加工しづらく、そしてとてつもなく高価なものなので……値段を聞いた時は正直私も飛び上がりそうになりました、しかし、ここまで手をかけているとなると頷かざるをえません」


「しかし、お金があったとしてもこんな大金どうやって払うんだ?」

「そのことについては、すでにイリア様と話がついていますので、お手数ですが詳細はイリア様に直接訪ねた方が早いかと」


「わかった、後で直接乗り込めばいいんだな?」

「何もそこまでなさらなくても……、そ、それより女王陛下がお待ちなのでは?」


「お、おう、長々と悪かったな、とりあえずこの指輪はいただいていいんだな?」

「どうぞお持ちください、さ、さ、ではどうぞお戻りください」


 リチャードにせかされ部屋を出ると、メリアはまだ宝石に食らいついていた。


「メリア、お待たせ!」

「もう戻ったの?おかえり!」

「メリア、左手を貸して」

「へ?うん、でもなんで?」

「いいから、いいから、はい、これで良し!」


 俺はさっき隣の部屋でもらった指輪を、さっそくメリアの左手の薬指にはめてあげた。

 すると、メリアは喜びを通り越して、感動のあまり号泣し始めてしまった。

 俺からすると、急に泣き出されたものだから軽いパニックを起こし冷や汗まで出てきた。

 どうも男というのは女の涙(特に怒りと悲しみ)には弱く、対処に困る場面が多いような気がする。


 しばらくすると、落ち着きを取り戻し、何とか喋れるまでになった。

 それでも俺は体が硬直して何もできず、ただただその場に立ち尽くすだけだった。


「ック、ご、ごめんね、うれしすぎて、ッ、泣いちゃったの、本当にありがとう!私今すごく幸せだよ、大好き!」


 まだほんの少し涙を流していたが、これまで以上の満面の笑みで喜んでくれた。


「よかった、何事かと思っt……、ッッ!」

 やっと硬直が解け、近くにあった椅子に座ろうとした瞬間、メリアは俺に抱き着き、唇にキスをしてくれた。


「私からのお礼よ、本当にありがとう!」

「喜んでくれてよかった!リチャードもありがとう」

「いえいえ、両陛下が喜んで頂けるだけで、これ以上の喜びはありません」

「それじゃあ、メリアそろそろ帰ろっか」

「そうね、帰りましょ!」



 俺らが入り口に向かって歩き出していくと、店内にいた店員全員で退店のあいさつしてくれた


「「「「ありがとうございます、またお持ちしております」」」」


 今日は最後にメリアが普段勤務している、“銀行”へと向かった。






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