145.パルティア宝飾店

 

 やっとの思いで歩き出した俺とメリアの周りには、流石に同じことが起きてはまずいと思ったミセア大佐とその直属の部下数名がすぐそばを固めていた。

 最初メリアは嫌がるそぶりを見せたが、俺がこの状況を受け入れられないなら王城に帰ると言い出すと、不承不承とった感じではあったが容認した。



 今歩いている「城下中央街」には、食堂のほかに洋服屋や花屋に武器屋と様々な店が軒を連ね、多くの人でにぎわっている。


 俺がこれから向かおうとしている宝石店は、ベリス商会所属のパルティア宝飾店(アルダート店)といって、国内だけではなく世界中にある希少で美しい宝石やガラス細工を扱っているお店だ。

 そしてベリス商会は、宝飾品、高級衣服、家具、武器、希少鉱物などを扱う商社で、商品の中には貿易品が多く貴族などの上流階級に人気が高い、少数だが高級食材なども扱っていて、それを使った料理を出す高級料理店も経営している。


 さらに傘下企業にはベリスホテルを持ち、こちらも上流階級をターゲットとしたホテル運営をしている。

 そのほかに貿易のための船、護衛用の戦闘艦、警備兵などを保有し比較的大きな商会となっている。



「ねぇ、これからどこへ行くの?」


 目的地に向かっている途中、行先も目的も何も知らないメリアは、不安に思い始めたのか、俺の肩を腕をつかみながら上目遣いでそう聞いてきた。


「どこ行くかって?それは秘密!でも、その場所についたらきっとさっきの出来事が吹っ飛ぶぐらいのところだよ」

「えッ!それは楽しみ!」


 何度見ても思うが、メリアが喜んだ姿はなんとも少女的な喜びのようで、可愛くそして愛らしい。


 そうこうしているうちに、目的地に着いた。


「いらっしゃいませ!国王陛下、女王陛下!」


 俺たちが近づいたのを確認して、店の中から店員全員が出迎えてくれた。

 しかも、その中心にはべリス商会社長のパルティア・リチャードが立っていた。


「えッ!どういうこと?」

「流石に俺もびっくりだな……さては君の仕業かな?」


「は、はい……」

「いや、いいんだ、別に責めているわけじゃないんだ、ありがとう」


 どうやらミセア大佐が気を利かせて、この店舗に掛け合ってくれていたようだった。

 しかし、そんな本人も社長が来て出迎えてくれとは要求はしていなかったらしく、とても驚いていた。


「あなたがここの社長さんですか?」


「お初にお目にかかります、わたくし当パルティア宝飾店及びべリス商会社長を務めております、パルティア・リチャードと申します。以後お見知りおきくださいませ」


「よろしく!」

「このようなところではなんですので、どうぞ内にお入りくださいませ」


 そういって、リチャード社長自ら直接俺たちを店の奥にある貴賓室に案内してくれた。

 店内を見てみると、高級な商品が置いてあるのにもかかわらず、多くの人でにぎわっていた。

 どうやら、最近ここで結婚指輪などを買うことが庶民の中で流行っているらしく、その理由が、ここで買った指輪を身に着けているとずっと幸せになれるという話らしい、本当かどうかは定かではないが、どこの世の人間も、流行りや縁起のいいものにはすがりたくなるのだろう。


「どうぞ、お入りください」


 リチャードに連れられ入った部屋は、まさにVIPルームと言うにふさわしい雰囲気の部屋で、高級そうな机や装飾品などが置いてあり、この部屋専門のメイドもいた。

 そして、通された部屋の中心にあった机の上には珍しい宝石が所狭しと並んでいた。

 それを見たメリアは、興奮と喜びが隠しきれない様子で、目を大きく開き少し鼻息が荒い。


「すごい!すごい!こんなにきれいな宝石が並んでいるところ初めて見た!」

「本当に?王城にはもっといっぱいあるんじゃないの?」


「あるはずなんだけど、城が何しろ広すぎてどこにあるのかわからないのよ、しかも、私のお父様もお母さまもそんなに宝石に興味を示さなかった人たちだったから、あんまり期待できないし」


「女王陛下にそこまで喜んでいただけるのは、この私にとって最上の喜びです!さ、さ、お茶もご用意しましたので、どうぞごゆっくりご覧になっていてください」


 すると、リチャードは他の部屋へと消えていった。

 俺はその姿を少し不思議そうな目で見ていたが、メリアはそんなことより目の前にある宝石に夢中になっていた。


 目の前に並んでいるのは元居た世界にもあったようなものばかりであったが、そんな中に見たことのないものも並んでいた。


 その見たこともない鉱石というのは「オリハルコン」と呼ばれる鉱石で(某RPGで聞いたことあるとか言わない)ダイアモンドより硬く、透き通るような水色をしている。この鉱石は主に王族や貴族が使う武器や防具の強化素材として使われていて、その硬さと相まって、非常に強力なものに仕上がることで有名。そのほかに、魔術道具としても有用で、これを使うことによって非常に制御が難しい魔法でも使いやすくなるようだ。ちなみに、この鉱石は魔術核融合炉の魔術防壁の素材としても使われている。


 もう一つ「メルケニカ」と呼ばれる黒く透き通っていて鉱石で、これは最近ガレア郊外にある鉱山でたまたま発見されたばかりもので、まだ細かい特徴や性質などは分かっていないが、現時点でわかっていることは、オリハルコンよりも硬く魔法を一切通さないということだ。この鉱石を採取するとき困難を極めたようで、当初オリハルコン製のピッケルで試みたが全く歯が立たずとても硬かったので超大規模な爆発魔法を使ってが、それでもようやく小さなかけらがとれるほどなのだという。これは未確認の情報だがどうやら魔力を注ぎ込むと浮力を発生させるようだ。


 お互い目を光らせながら、宝石を見ていると、先ほどまで姿を消していたリチャードが部屋に戻ってきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る