29.村へ

 

 リザードマンからキューレ奪還後、6人は日没前に村の門へとたどり着いた。


 村に着くと大勢の村の人達に歓迎された、そんな人たちの中心を通るように進むと射撃訓練にも来ていた防衛隊長も駆け付けてくれていた。

 エレザ姉妹は一旦村の集会所に向かうため、ここで別れた.


「ワタ殿!この度は良くキューレ様を救ってくださいました、そしてあの忌まわしきリザードマンどもをあの“マシンガン”なるもので完膚なきまでにたたきつぶして頂き、村人一同感謝しております」


「いえ、これはこのベルやシルヴィアの手助けが有ったからこそなし得たことです」


「そこまで謙遜なさらなくても、ワタ殿の実力は射撃訓練の際に拝見させて頂いていますので、今回の討伐は成功すると思っていましたよ」


「そういえば、今更だけど貴方のお名前は?」

「申し遅れました、私はこの村の義勇防衛隊隊長を任されておりますグラント・シエルと申します以後お見知りおきを」

「シエルさんね、今後ともよろしくお願いしますね」

「ワタ様!そろそろ行きましょう、こんなところで無駄足を食ってしまっては日が昇ってしまいますよ」


 ベルは不機嫌な顔でこちらを見ている。


「ベル貴様!私の会話を無駄だと!」

「そうよ、シエル ワタ様はこれから忙しくなるんだから、ちょっとの時間でも惜しいの そんなんだからいつまでたっても上に上がれないのよ、シエルさん」


 なんだか空気が悪くなってきた。


「なにを!貴様は上に上がったと言っても、どうせコネであろう?汚い手を使いおって!」

「まぁまぁ、二人ともそこらへんに――」

「ワタ様に言われてしまってはしかたがないですわ」「これは失礼しましたワタ殿」


 しかし、俺が言う前に何故か収束してしまっていた。



「(なぁ、キューレ、なんでこの二人はこんなに仲が悪いんだ?)」

「(この二人は王立士官学校での級友でして、学校で1、2を争う程の実力を持った二人はいつもこのようにして意見がぶつかって喧嘩していたそうです。良く言うライバルです)」


 どうやら今いるこの二人はそうとうな犬猿の仲らしい、説明してくれたキューレも呆れている様子だ。

 このシエルは前任の男性防衛隊長のもとで長らく副隊長として任務についていたが、その男性隊長が戦死するとそのままこの村の防衛隊長に昇進した。


 戦闘指揮能力に関してはベルより優れているが、近接戦闘能力はベルには及ばないらしく、二人が取っ組み合いになるといつもベルが勝つらしい。

 やっぱりベルさんを怒らせてはダメだな……怖い怖い。


 そして、ベルやシルヴィアと違って髪はショートカットで淡い赤色、胸は程良い膨らみで、見た目はCぐらいありそうだ、身長は大体160㎝ぐらいだろう。

 そんな、俺の変な視線に気づいたのか、シエルは目をそらし、顔を赤らめてしまった。


「ワ、ワタ殿、行きましょうか?」


 顔を赤くしつつもシエルは村長の元へと誘導してくれる。


 転生してから何も思わなかったが、日が傾くのがとても早いようなので、今のこの世界の季節は冬だと思われる。実際ベルにこのことを聞くと、世界(この国?)は一年が360日で今は12期目(地球で言うところの12月)だそうだ、今いる地域は比較的温暖な気候で雪はそんなに降り積もることはないらしい。


(くそ!そろそろあの綺麗で心洗われるあの雪壁一面の銀世界が拝めると思ったのに!ここでは拝めないのか……あれを見ないと冬が来た感じがしない。地球のかの雪国では降り積もっているというのに、いつかこの世界を旅行するときは心の故郷「雪国」に探しだしても行ってやる!)


「ワタ様、何か思いつめた顔をしていますけど、どうされました?」

「ん?いやなんでもない、たいしたことじゃないから」

「お兄様は、私に会ってからずっと考えごとをされていますよね?以前もそうでした?べル姉様」


「そうね……そういえば貴方を救いだす前もこんな感じに考えこんでいたわね、でもねそんなところが素敵なの……」

「おい!ちょっと待て! いつからキューレの兄貴になってるんだ?しかもベルは姉様ときた、しかも最後なんて言った!?」


 キューレを救出した後から、キューレの俺に対するスキンシップが増加し、なおかつ会話の中にもあったようにいつの間にか“お兄様”になっている。別にその言われ方が嫌いというわけではないが、内心焦りや緊張がある。


 それはこの世界に来るまで女性との「プライベートな関係」がほとんどなかったからこういうあからさまに誘っているような言動や行動には付いていけない、ただ仕事上で女性との付き合いは多々あったので会話で“あがる”ことはない。ステラやベル、シルヴィア、フレイアの時もそうだが、どんな人物に対しても最初の対応がおかしくなければ自然と打ち解けられる、だがやはり、こちらに対する“好意”を感じとることは苦手なようだ、ただステラの時に限って言うのであればあれは例外だ。

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