19.それぞれの道へ


 トントン


 静かに二回ドアをたたく音がした。


「誰だ?」


 少しばかりの苛立ちと警戒心をふんだんに含んだ声でその来訪者たちに対して尋ねた。


「我々は王国近衛騎士団第一連隊である、モンスター大量発生の報を聞きここを訪れた次第である、エレザ殿とワタ様にお目通り願いたい」


 その言葉にエレザと俺は一瞬顔を見合わせ、なんのことかと首をかしげたが、前を向いたかと思えばそのままエレザは入り口へと進んで行く、それに遅れて慌てて俺もついて行く。

 後ろではステラが心配そうな顔で見てきていた。


 ドアを開けるとそこには美少女騎士が立っていた、その子はエレザ達とは違い現世でモデルをやっていそうなかわいさがあった

 髪はセミロングで白に近い銀色、体は鎧の上からでも見てわかるほど豊満な体つきをしており特に胸のあたりは……大きい。しかもよく見ると背中からは天使のような白い羽が生えている……!?


(こっ、これは獣ッ娘って奴ですか!いや違うモンス…それとも、もう天使様が俺をお迎えに……)


 すると美少女騎士(天使というか女神)は満面の笑みで俺に近づいてくる


「やっと見つけましたわ!ワタ様!」


「何故俺の存在がわかるんだ?それに“ワタ様”って?」


 天使みたいな羽のはえた美少女は、普通の人からしたら意味不明なことをいう俺に眉ひとつ変えず答えてくれる。


「はい!ワタ様のことは召喚前に“鏡”と呼ばれるこの世界から召喚先が見える特殊な鏡にて拝見させていただいておりますので以前から存じております。それと腰につけている端末その物が確たる証拠です!」


「意味がよくわからないけど……それはそうと、君は誰?」

「申し遅れました、わたくしは王国近衛騎士団第一連隊長のへカート・ベルと申します。ベルとでもお呼びください」


「じゃあ、あれは君の部隊?」

「急用もあってたまたま大勢で来てしまいまして、お騒がせして申し訳ありません」

「別にそれはいいんだけど、そんな大部隊の隊長がどうしてここに?」


 この時の俺は困った様子を伝えようと視線を送るが、エレザはただこちらの様子を窺うだけのようで視線を合わせようとしてくれなかった。


「それより王城で女王様がお待ちしておりますので、そこの一行ともども、一緒に参りましょう!」

「“そこの”とは何だ“そこの”とは!」


 ベルの放った一言により、先ほどまで静観していただけだった、エレザが怒り出す


「いやちょっと待って、そもそもなんで俺が“召喚”されたってこともこの端末のことも知っているんだ?」


 それを聞いたベルは「あ!いっけね」みたいな感じで頭をかきながら簡単に説明してくれた。


「簡単に申し上げますとあなた様はこの世界にこの王国の女王陛下によって召喚された所謂“選ばれし者”です。ですから、これより王都へ向かっていただきそこで女王陛下に謁見していただきたいのです」

「なるほどね、大体は理解できたよ、それじゃあその王都へ向かいましょうか」

 そこまで黙っていたエレザだがここで急に話に割り込んできた。


「予定があるのに悪いがワタを連れて私らと一緒にエルベ村に向かってくれないか?」

「それは無理な話だな」

 ベルの傍にいた騎士は不快な様子で答える


「いや、行きましょう。確かそこもモンスターの討伐令が出ていましたね?」

「そうだ、とりあえずここが落ち着いた頃合いにあちらの視察と討伐の応援に向かいたいからな」

「しかし!ベル様!我々は……」

「ええ、わかっていますわ、しかしあそこには“挨拶”しておきたいお方もいらっしゃるので、ついでに」


「ですが、ベル様」

「お黙り!あなた方は途中の戦闘で負傷した者たちを連れて王都に引き返しなさい、そして女王陛下にはベルはもう少し探してきますと伝えておきなさい!」

「は、はっ!」


 騎士は少し困惑した表情を見せたが、ベルの有無を言わせない物言いに圧倒された騎士は敬礼をしてすぐに踵を返した。

 それを聞いた後方の騎士たちもすぐに行動を開始し、負傷者を連れ王都へと引き返し始めた。


「皆様方、向かいましょうか?エルベへ」


「ではさっそくそうしようか、情報によるとかなり手ひどくやられているようだからな」


 話が二人の中で進んでいる中、俺はずっと後ろの方で心配そうに見ていてくれたステラに近づいていた。


「ステラはこの後どうする?」

「出来ればついて行きたいのだけれど、二度も助けてもらってしまった私がついて行ってしまったらただの足手まといになってしまうわ、でも考えたのはここで一旦あなたと別れてこれから軍にでも入って修行しようと思うの、そこで強くなったらまたあなたに会いに行くわ」


 やはり二度も助けられたことを随分と気にしているようで、ステラはそのことが足かせとなって今ついて行くことをためらっているようだ。

 しかしそこには強い向上心と決意や希望に満ち溢れた顔があるのと同時に淡い恋心を抱いた少女の顔も垣間見える。


「わかった、そうなったら必ず会おうか、それまでお互い頑張ろうな」

「うん!じゃあ元気でね!」

 そうやって見送ってくれたステラはかわいらしい満面の笑みで見つめていてくれた。


 俺が二人のところへ戻ってくるとちょうど話も終わったのか、俺の顔を一瞥するとすぐに外へと向かって歩き出した、俺もそれについて歩いていく。


 こうしてエレザ、ミレイユ、ワタ、ベルの一行は一路エルベへと向かっていった。


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