7.冒険者登録!


 「あぁぁ?何だよこの俺にどけと?」

 「それとも俺たちと一緒に遊ぶかい?」

 「そりゃいいや!よく見ればいいからだしてるしな」


 男たちは品定めをするかのような目でエレザを眺め始めた。

 そんな視線に対してエレザは眉をひそめ汚いものを見るかのような目でみていた。


 その様子を見て、俺は静かに男たちの視界外に動き、かなりの戦闘力を持つはずのエレザだが、万が一の事を考えて腰のホルスターに入れてあるP226に手をかけ臨戦態勢をとる。

 

 (倒せるとは思わないけど、威嚇ぐらいなら!)


 「やかましい!消えろ下衆ども!」

 「俺らの受付嬢さんに手を出そうとするんじゃない!」

 「そうだそうだ!お前らじゃ話にならん!」

 「帰れ!」


 しかし、俺の考えは杞憂に終わった。

 周りで見ていたほかの冒険者たちがその男たちに向けて怒りの声を上げ始めたからだ。

 どうやら、受付嬢さんも人気が高いらしい。


 「チッ!覚えてろよ!」


 分が悪いと感じたリーダー格と思われる男はこれ以上ここにいられないと思ったのか、捨て台詞を吐き去っていった。

 リーダー格の男が出ていくと同時に取り巻きの男たちも不承不承帰って行った。


 「不運だったな」

 「酔っていたのでしょうがないことです、帰っていきましたしあまり気にしていません」


 受付嬢さんは、このことが一度や二度ではなかったようで、特に取り乱す様子もなく、涼しい顔をしていた。


 「それにしてもリズ、久しぶりだな」

 「ハイ!お久しぶりですマスター!今回はどういったご用向きで?」

 

 さらにエレザが受付嬢に話しかけると、これまでのクールな表情から打って変わって満面の笑みに変わっていた。


 「マスターはよせ、恥ずかしいだろ、そんなことよりこいつを冒険者として登録したいのだが?」

 

 エレザが声をかけたリズはこの集会所の受付担当で、主にクエストの受注などを取り扱っているらしい。

 リズは右側におさげをしている赤毛のショートで胸は大きくはないが程よい形をしている、見た感じはきはきして明るい印象だ。


 エレザに言われてリズはようやく俺に視線を移す。

 どうやらエレザに視線を奪われて俺の存在に気付いていなかったようだ。

 やはり俺の服装はこの世界の人間にとって初めてみるもののようで、リズも好奇の目で俺を見る。


 「お知り合いですか?」

 「いや、さっき途中で襲われたときに助けてもらったんだが、どうやら行く当てもないようだからここに連れてきた」

 「そうなんですね、それでは出身地と名前を教えていただけますか?」


 先ほどまで、きゃぴきゃぴした女の子のような態度をとっていたリズであったが、俺の登録の話に変わったとたん、最初のクールな表情に戻っていた。


 「はっ、はい、日本というところで、名前はワタって言います」


 俺は突然の質問に頭が真っ白になってしまい、つい”日本”から来たと口を滑らせてしまった。


 (しまった!つい言ってしまった……、怪しまれないといいけど)


 「ニホン?聞いたことがないな?東方にある国の名前か?」

 「すみません、今は細かいことが思い出せなくて……」

 (気づいたらこの世界にいたなんて言えない)

 

 「まぁいいでしょう、最後に水晶に向かって手をかざしてください」

 

 しかし、俺の心配とは裏腹に、二人は特に気にすることも詮索することもなった。

  

 とりあえずリズに言われた通り水晶に手をかざす。

 するとすぐに水晶は白く発光していた。


 「はい、もういいですよー、手を放して下さい」

 「え!もう終わりですか?」


 手をかざして2秒も経たないうちに、手を挙げるように言われる。


 「ハイ!これで完了です!とりあえず今日はここまでです。明日またこちらにきてください、細かいことも説明しますので」


 拍子抜けするほど簡単に終わった登録だが、明確な身分証明書がないこの世界においては水晶での識別方法が最も重要視されているようなので、これさえクリアしてしまえばいいようだ。


 ここまで終わったところで俺の体はすでに限界を迎えていた。

 エレザはまだリズと話しに花を咲かせていた。

 俺はエレザに一声かけて一足先に宿へ向かうことにした。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る