8.セレデア
登録が終ると俺はエレザ達と別れ、ギルドを出た。
これから向かう今日の宿は、この町で人気の高い銀竜亭だ。
宿は俺とエレザがギルドに言っている間にミレイユが予約してきてくれたらしい。
この銀竜亭はほかの宿では珍しく、夕食と朝食付きの宿なのだそうだ。
何故、夕食と昼食付が珍しいかというと、この世界の宿の食事のほとんどが持ち込みか外に出て食べるところしかないからなのだそう。
そしてその夕食と朝食に出てくる料理自体ものすごくおいしいと冒険者や旅人といった人たちからの評価が高く、あまりにも人気なので泊まらない客に対しても食堂を開放して料理を提供するぐらいらしい。
しかし、当然その分宿代も高くなってしまう。
この銀竜亭は中級以上の冒険者やある程度お金に余裕があるような人が泊まるところなので、俺みたいに無一文な人間にとっては敷居が高い。
ただし、今回に至ってはエレザの好意によってここに泊めさせてもらえるようなので嬉しい限りだ。
宿の場所は近く、ギルドから出て後ろの方向に一つ建物を隔てたところにある。
ギルドから出て右側から行くと、すぐのところにノクス街と呼ばれるR20(20禁)の小さな町が石造りの塀に囲まれて存在する。
近くを通るだけで濃い香水やお酒の匂いがしてくる。
この世界では、人権などという概念が存在しないため平気で男女種族を問わず様々な奴隷が売られているそうだ。
さらにはこの中には、飲み屋やお風呂屋(R20)、休憩所(R20)、マッサージ店(R20)などが並んでいるようで、塀があることを除けばまるで某副都心の繁華街のようだ。
そんなものを脇目に見ながら歩くと道路の両脇には露店が立ち並んでいて非常ににぎわっていた、中には本来ここでは売ってはいけない奴隷も叩き売りされていた。
売りに出されている人たちは皆手首に枷が嵌められ、着ている服はボロボロで茶色く汚れていた。
そして彼らの虚ろな表情で空を眺める光景に思わず目を逸らしてしまった。
(俺もこの世界で何か道を少しでも外せばこんな身分に堕ちるのか?)
元居た世界でも裏世界ではあるとネットで見た記憶があるが、実際に目の当たりにすると、酷く辛く、そして自分も運が悪ければこうなってしまうのではないかという不安に襲われた。
そこから離れる為、俺は足早に宿の方向に向かう。
途中、歩く人たちからは緑の服装に黒い棒状の物を担いでいるのが奇妙に映ったのか、不思議そうな目で見られていた。
しばらく露店の間を進むと丁字状に道がぶつかっていて、それを右に曲がると左側に目的地だった銀竜亭が見えてくる。
その銀竜亭の正面の大通りは商店街になっていて中流階級の商人たちや地元の農家などが多くの店を開けるところになっている。
銀竜亭につき入り口から入るとすぐ横には一階の大部分を使った大きな食堂があり、すでに多くの人でにぎわっていた。
いい匂いにつられてついそっちに行ってしまうところだったが、まずは受付でチェックインを済ませておくことにした。
受付にはいかにもホテルマンな風貌の男性が座っていた。
「いらっしゃいませ、ようこそ銀竜亭へ!ご宿泊でしょうか?」
「ええ、エレザさんにここに泊まるようにと言われてきたのですが?」
俺はエレザにギルドで渡されていた分厚い紙でできた証明書のようなものを受付の人に渡した。
「確認しますので少々お待ちください」
そう言って後ろの部屋に行ってしまったが、受付の人は鍵のようなものをもって数分もたたないうちに部屋から出てきた。
「お待たせしました、確認が取れたのでこちらのカギをお渡しします。場所は最上階の7階にある709号室です。その階全体が“ローズナイツ”様御一行によって貸し切られていますので”ご注意”ください」
どうやら俺の泊まる部屋の周辺にはローズナイツ所属の人たちも泊っているようだ。
彼の口から出て来た警告は、俺には理解できなかった。
「何か御用の際は部屋の中にあるベルを鳴らしてお申し付けください、朝食と夕食の時間になりましたら従業員がお知らせいたしますのでその時間になりましたら一階の食堂までおこしくさだい……以上ですが何か質問はございますか?」
「いえありません」
「それではよい時間をお過ごしください」
受付の人と別れるとすぐに階段を上がり自分の部屋へと向かう。
さっきの受付の人やほかの従業員を見ていると、前の世界で同じようなことをしていたのでなんだか親近感を覚える。
部屋につくと安全のためにまずP226とSIG716の弾倉(マガジン)を外し、チェンバー内(銃本体の弾の入っている箇所、薬室とも)の弾を抜きP226は近くにあった机に置いておく、肩にかけていたSIG716を壁に立てかけておく、最後にホルスターやヘルメットを外す。
弾を抜いておいたり弾倉とは別の場所に保管しておくことは、もし万が一他の人に触られてそこで何かの拍子に弾が発射されるのを防ぐ意味がある。
さらに弾を抜かないで悪意のある人に見つかった時にはさらに最悪だ。
しかし、今のところこの世界では銃の有効性がわかっていないはずなのでそこまで考える必要はないのだが、万が一の事を考えてやっておくに越したことはない。
それが終わると重くなった体を部屋に備えつけられているベッドに横たえる。
そのまま俺は秒も経たないうちに深い眠りについた。
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