第27話 才原凛花のオリジン5
その後、直ぐに凛花と志信はロードバイクを買うために〈路流風〉に行きました。
そこでは、待ってたわよと言わんばかりに堂々とした笑みを浮かべる風華の姿が。
久しぶりに会う風華に第一声、
「風華お姉ちゃん!やったわよ!私、」
「ロードバイクする許可が下りたんでしょう?」
「え!な、なんで知ってるの⁈」
凛花と志信と麟太郎しか知らないはずの最新情報を知る風華に、当然の如く凛花は驚きます。
「そりゃまあ?アタシが志信に提案したんだしね、凛花ちゃんにロードバイクさせてあげるチャンスをあげたらって」
「えっ!」
凛花がバッと志信を見ると、志信は頬をポリポリかいて苦笑いします。
バレたかーっ、といった感じです。
「まあでも、結果的に志信が頑張ったから成功したわけだから、実質は志信のおかげよ。アタシはただ提案しただけだから」
「いやぁ、まあお兄ちゃんにしては粋なことするなぁって思ったのよねぇ。なるほど、風華お姉ちゃんが一枚噛んでたなら納得だわ」
うんうんと頷く凛花。
志信はやはり苦笑いを声に出して、兄の威厳がなくなっていくのを、ちょっと悲しそうにしますが、
「でも……お兄ちゃん、ありがとね。カッコ良かったわよ」
背中を向けてお礼をする凛花。面と向かって言うのは、流石に恥ずかしいようで、決して志信の方は見ません。
滅多に聞けない凛花のその言葉に、志信は表情をパァァッと明るくします。
そして気分が良くなったのか、
「お、お兄ちゃんに何でも欲しいもの言っていいよ!なんでも買ってあげるから!」
「えっ、ホント!じゃあねぇ——」
そこから凛花の、思わず志信が叫びたくなるほどの買い物が始まりました。
「まずロードバイクは、前々から気になってたコレ!」
「カ、カーボン限定ロード……三十七ま……」
「次は、練習会とかに出たいから、〈路流風〉のチームジャージとヘルメット一式!」
「え、全部合わせると、えっと……」
「細かい計算は後でやっとくから良いわよ。あ、チームジャージは赤と黒のヤツね……って、まあ知ってるわよね」
「うん!えっとその次は——」
「う、うぐっ、なんでもとは言ったが、胃が痛くなってくる……」
凛花の欲しいもの……というか考えていた必需品リストは止まりません。
替えチューブ、輪行袋、携帯空気入れ、携帯リペアキット、サドルバッグ、ボトルゲージ、ボトル、サイコン……etc。
そして最後に、
「この桜色のジャージとレーパン!あとはこのヘルメットも欲しいわ!」
「なっ!ウェア一式ならさっきチームの買っただろ?それでいいんじゃ……」
志信の言うことはごもっとも。確かに、ウェアは最初は一つでも十分ですし、ヘルメットだって二つ持つ意味は最初は特にありません。
でも、凛花には別でした。
「……パパがつけた条件。『最初のレースで結果を残す』つまり、私が一位になるのは、私の力じゃなくちゃダメ。チームジャージで走るんじゃなくて、私は私だけの力で、自分のチャンスを背負って走る!」
麟太郎が凛花に出した条件。
凛花が言った、『最初のレースで結果を残す』。凛花はこれを、この試練を、真剣に考えていました。
勝つための方法を、そして必要なことを。
例えどんな手段でも、勝つために必要な要因を。
その一つが、サイクルウェアでした。
「だから、私は自分と同じ髪色の、一番好きな自分らしい色で走るの。誰のせいにもしない。誰にも負けないって、意志を込めて」
決意固く、やる気十分。
自分の夢に必要なことを自分でしっかり考え、先を見据える妹に、志信が言うことはありませんでした。
黙って金を出すだけ。
と、そこへ風華がやってきて、志信に耳打ちを。風華が志信の顔から自分の顔を離すと、志信は固ます。
凛花は何を耳打ちしたのか一瞬で分かりました。
弱々しく、「カードで……」という志信。大人であり、漢です。
兄の精一杯の威厳を見せて、フリーズする志信をよそに、風華は凛花に近づき、
「今すぐにでもロードバイクには乗れる。チームウェアも買ってくれたから、会員として、練習会にも参加できるわ」
「ありがとう風華お姉ちゃん!是非そうするわ!ロードバイクにももちろん、今すぐ乗る!」
凛花はそう言うと、買ったばかりのウェアに着替えます。ヘルメット、アイウェアをして、準備を整えます。その足にはビンディングシューズも。
「なあ、初めてのビンディングは流石に危ないから僕もついていった方が……」
「大丈夫よ!このことをずっとイメージしてきて、足を捻る練習もしてたんだから!初めてロードバイクに乗る感動は、一人で味わせてちょうだい!」
凛花はそう言うと、一度ペダルとクリートを合わせ、そして外し、一人でできることを示しました。こんな練習をして臨むのなんて、凛花くらいなものでしょう。
あまりの準備の良さに、志信はやれやれと笑い、風華と共に、
「「じゃあ、いってらっしゃい」」
凛花を送り出しました。
凛花は二人に元気よく、
「ええ、いってきます!」
そう、お決まりの返事をしました。
そして遂に、凛花はロードバイクに乗り、大地を駆けます。
太陽に熱せられたアスファルトを、苔生い茂る涼しき魅惑の山々を駆けます。
プロになり、家を出た兄の意志を背負って、少女は駆けます。
まだ見ぬ敵と戦う力を得るために、少女は駆けます。
情報、自己分析、イメージ、戦略、出来る全てを行い、心苦しい裏切りをしても、この美しく尊い世界にずっといるために、掴んだ夢を離さないために、——少女は全力で駆けます。
そして、
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