第二十四話~まだ見ぬ魔王に憧れて~

 ポテチを食べながら、俺たちは久しぶりにゲームをしていた。

 前回のドラゴンでクエストなRPGをやった時と同じように、テレビを二台、ハードを二台、ソフトを二本用意して、俺とサクレは一緒に同じゲームをしていた。

 今回は何がファイナルかよく分からないファイナルなファンタジーゲーム。

 俺はすでにラスボスまで来ていたが、サクレは序盤で躓いたのか、ずっと敵と戦ってはゲームオーバーの文字を出し続けている。あれで何回目なんだろうか。うわぁ、下手くそ。


「あのう、もういいですか」


「うわっと」


 突然声をかけられて体をビクつかせてしまった。そんな俺を見ていたサクレがニタニタと笑っている。こいつムカつく。あとで泣かせよう。

 それは置いておくとして、俺は声が聞こえたほうに視線を向ける。

 そこに立っていたのは、俺より少し年下の女の子。ごつい甲冑を着て、きらびやかな装飾品をつけていた。なんていうか、こう、前に魔王と手をつないでやってきた勇者みたいだ。

 でも、あの時の勇者とは違う。別の世界の勇者だろう。


「あの……大丈夫ですか?」


「えっと、はい、大丈夫。えっと、あなたは」


「私は勇者。よろしくね」


 勇者は俺に手を差し出した。俺が勇者の手を取ろうとしたところで、サクレが邪魔をする。


「ちょっとっ! 人の旦那に何気安く触れようとしてるのよっ!」


「っは! そうです、私には愛する人がいるのでした。ごめんなさい、あなたの手に触れることは出来ません」


 そしてなぜか俺がフラれる。なんか納得いかない。


「あれ、あなた、好きな人がいるの」


「そうなんですよっ。でも、結ばれる前に死んでしまって……」


「それはなんていうか、ご愁傷様です」


「あなたは転生神様なんですよね」


「そうよっ! 私は転生神サクレ。どんな魂も私にかかれば好きな世界の好きな時間軸に転生できるわっ!」


「ではお願いします、私を彼と同じ世界に転生してください」


「だめよっ」


「ちょ、おま、勇者がお願いしているんだからやってやれよ。それがお前の仕事だろう」


 この駄女神、私に任せて的な発言をしておきながらそれを拒否するとは、なんて最低な奴なんだろう。


「ただで願いを叶えてあげる程、転生神は優しくないわっ!」


「おま、今までそんなこと一言もいったことねぇだろうっ」


「では、私はいったい何をすればいいのっ!」


 俺の話は一切聞かず、勇者はサクレに話かける。というか、愛する人がいる宣言をしてから、勇者は俺のことを一切見ない。

 愛する人がいる宣言をしてから、俺を視界に入れようとすらしない。もしかして、俺はいない子扱いされているのだろうか。

 今回も、様子を見るだけにしよう。

 …………傷ついているわけじゃないんだからなっ。


「そうね、私は欲しているのよ」


「……いったい何を献上すればよろしいでしょうか」


「恋バナよっ! あなたが愛している男とのあれやこれやを話しなさいっ!」


「それぐらいお安い御用でっさ、親分」


 勇者の一言で、何だろう、話がなんか安っぽくなったような気がした。

 まあいい。俺は、何も語らない。


「まず、あなたが好きになった男について教えて頂戴」


「わかりました。あれは、私の家にハゲおやじ共がやってきた時でした」


 凄く興味深い始まりだった。ハゲおやじ、一体何者なんだろうか。


「ハゲおやじは私のことを勇者だと言って、家族と引き離し、王都の教会に私を軟禁しました」


「ふむ、なるほど、それで?」


「いや待って、何がなるほどなの。ねぇ、何がなるほどなのっ」


「ダーリン、うっさいっ」


 今度の夕食、レトルト品にしてやろうか。ちなみに、レトルト品はほかの神様に頼めばくれる。うん、今度いちごカレーをもらってこよう。


「私はハゲおやじどもに言われて、魔王の存在を知ったの。それから私は魔王のことを常に考えたわ。剣の修行の時も、御飯を食べる時も、寝る前も、常に魔王のことを考えたわ」


「ふむふむ、なるほど、それでそれで」


「ずっと魔王のことを考えていると、彼ってどんな人なんだろうと思うようになったんです。だって、魔王復活のお告げを聞いても、魔王さん、人間界を一切侵略しようとしない。心の優しい魔王様。私的には家族と引き離し、私を監禁した神様のほうが最低最悪の悪人のように見えたわ」


「あの、私は神様なんだけど、転生神なんだけど」


「でも、神様ってほかにもいろんな方がいるんですよね?」


「まあそうね。その神様の名前って」


 勇者はサクレに近づいて、耳元でささやいた。サクレは三回ほど頷いた後「それお姉ちゃんだ」と呟いた。

 お前、お姉ちゃんいたんだ。


「あなたのお姉さん最低ですね」


「私もそう思う、あの駄姉、いつか堕天するって、私信じているわ」


「もし堕天したら、一緒に討伐しましょうっ!」


「ええ、その時は力を貸すわ」


 勇者と駄女神が熱い握手を交わした。何だろう、この二人を組ませちゃいけないような気がする。


「それで話の続きなんですけど、私、ずっと勇者として監禁されて、修行していたんですが、ある日『魔王がやる気ないから勇者いらなーい』という適当なお告げが来て、私は教会を追い出されたんです。しかも実家に戻してくれない。それどころか、私の実家を教会が焼き払ったんですよっ! しかもそれを魔王のせいにしようとして、教会が論破されました」


「なんて無能なのかしら、あの駄姉の信者たちは」


「ほんと、ふざけんじゃねぇよって感じてすよね」


「あなた、本当にわかっているじゃない。それで、恋バナはどうなったの」


「そうですね、行き場のなくなった私は、魔王のところに突撃したわっ」


「あら、いきなりっ」


「そうです、いきなりです。そこで私は出会いました。イケメンにっ」


「でも顔だけじゃないんでしょ」


「そうよ、彼は顔だけじゃなく性格も素晴らしかった。何年も魔王について想っていたせいか、私は惚れたわ」


「そりゃねぇ、当たり前よねぇ」


 それは一目ぼれというものなんだろうか。でも何年も顔も知らない相手を想い続ければ、こんなこともあるのだろうか。

 というか、この勇者の恋路、どこかの漫画で見たことがあるような気がする。というかコレ、絶対に漫画のネタだよなっ!

 絶対にあの漫画だよな。


「私はフラれ、死にました」


「まぁ、なんてことなんでしょう」


「おいサクレっ! そこ突っ込むところだろう、てかなんてフラれて死んだ。何があったっ」


「…………ふん」


「おい勇者、文句があるなら聞こうじゃないか」


「別に……」


 この野郎。まあ、この勇者に起こっても仕方がないんだろうけどな。


「わかったわ、あなたをその魔王のいる世界に転生させましょうっ」


「本当っ! やったっ」


 勇者は聖なる光に包まれて、徐々に上に上がっていった。


「ありがとう、女神様っ! 今度こそ私、幸せになりますっ! ぶっちゃけさっき話したことは異世界の漫画のネタそのままだったけど、信じてくれてうれしいわ」


 そう言い残して、勇者は消えていった。

 俺とサクレは互いに顔を合わせ、そして消えていった勇者の方に視線を向ける。


「「ふざけんなっ!」」


 怒鳴ってしまうのは仕方ない。あいつマジふざけんなっ!

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