第二十三話~駄女神と駄龍の闘い~
今日は気分的に肉が食べたいと思った。いや、いつも肉を食べているような気はするが、まあいいや。
とりあえず、玉ねぎをみじん切りにしてフライパンで炒めた。
きつね色になるまで炒めたら、火を消して玉ねぎを別皿に移す。
パン粉を牛乳で浸し、準備完了。
俺が料理をしていることを感じ取ったのか、サクレが唐突に現れる。
あいつ、俺が料理している時だけ、いつも唐突に現れるんだよな。もしかして、仕事抜け出して来てたりして。もしそうだったらアイアンクローだな。
「ダーリンがいいもの作っているような気がしたのっ! 何を作っているの?」
「今日はハンバーグだ。んでお前、仕事は?」
「何言ってるのよ、転生対象の迷える魂が来ていない以上、私に仕事はないわ」
うわぁ、駄女神、ほぼニートって危機感なさすぎだろう。
そんな俺の心境を知らない駄女神は、フォークのナイフを手にもって、机をダンダンとたたいて喚きだした。
「ハンバーグ、ハンバーグ」
「うるせぇ、少し黙れ」
「「ハンバーグ、ハンバーグっ」」
「だからうるせぇって……あ?」
よく見ると、駄女神の隣で喚く奴がもう一人いた。
いや、人じゃないから、一匹か。その一匹は、サクレと全く同じように、手にフォークとナイフを持って「ハンバーグ、ハンバーグっ」と喚いている。
俺は、サクレに視線を向けて、横の奴を指差した。
「サクレ、その隣の奴、迷える魂じゃね」
「ハンバーグ、ハンバーグって……え?」
俺の言ったことが一瞬だけ理解できなかったのか、それとも馬鹿なのか、きょとんとした表情を浮かべて、隣にいる奴を見た。
サクレの隣にいる、サクレの同じ大きさの赤い龍。嬉しそうに笑顔を浮かべながら、ハンバーグと叫ぶ、とっても情けなさそうな龍。その龍を見たサクレは、わなわなと震えた。
「あ、あんたはっ!」
「ハンバーグ、ハンバーグって、え?」
「アンタは、とある世界で、神の御使いと言われる無色の龍として生を受けるも火山口に落ちて真っ赤に染まり、赤龍帝になったかと思えば、出せる火力はコンロの強火ぐらい、最終的にキッチンに就職した駄龍っ!」
何その設定。てかキッチンに就職ってなんだよ。
「あ、お、お前はっ!」
今度は駄龍が何かを言い出した。
「女神として生まれているにも関わらず、背が小さくて胸もない、子供体系でありながら、可愛げのない我儘な性格から、女神詐欺師なんて呼ばれている、インチキ駄女神っ!」
「ちょっと、胸ぐらいあるわよっ! 私だって女よ、女神なのよ」
駄龍は、サクレの胸に視線を移し、鼻で笑った。それにイラっと来たサクレが駄龍に文句を言う。
俺はそれを聞き流しながら、先ほど炒めた玉ねぎと、牛乳に浸したパン粉、ひき肉を冷え切った手でこね始める。
脂が溶けないように、しっかりと手を冷やさないといけないが、これが若干つらい。別にこんなことする必要なんてないんだけど、おいしく食べるためにこだわりたいっ。
「アンタっ! 男みたいな体つきってどういうことよ。私のどこが男みたいなのよ。どっからどう見ても女の子じゃないっ」
「女の子って、笑っちゃうよ。身長も小さく、胸もない、声だけ高いってことはアレ? 小学生、っぷ。でも女神さまだから大人だよね。大人でその体格って……やっぱり男じゃ……」
「AAAカップなめんなっ! これでも気にしているのよっ。ちょっとはあるんだからぁ!」
サクレは目に涙を浮かべていた。というか、気にしてたんだな。
……女性の胸のカップ数って、トップバストとアンダーバストの差によって決まるんだよな。
んで、Aカップが10センチ。AAカップで7.5センチ。AAAが5センチだ。
胸のトップとアンダーの差がこれだけって、あってないようなものだ。
うわぁ、女神なのに可哀そう。今度からもうちょっと優しくしてあげよう。
「ちょ、ダーリン? なんでそんな目で見ているの。ちょっと、なんでよっ! 私はかわいそうじゃないんだからっ!」
一通りサクレをからかいながら、俺は混ぜたひき肉を手で一つ一つ形にしていく。後はこれを焼いて完成だ。
とは言え、焼き方にも注意が必要。
脂を軽く引いて、強火にかける。そこに生ハンバーグをのっけて、軽く1分ほど焼いたらひっくり返してまた1分。表面がこんがりと焼けたら、火を弱火にして、蓋をする。
後は8分ほどじっくり焼けば完成かな。
やっぱおいしいもの食べるときはこだわりたいよね。
「それよりアンタ、強火しか出せないんでしょう。とろ火とか中火とか、弱火とか、火の調節一切できない、そんなんでキッチンとして仕事できてたの。あんた役立たずな駄龍として生まれて、仕事もできないって、笑っちゃうんですけどっ」
「は、キッチンなんて強火が出来ればいいんだよ。ね、そこの人」
え、あ、俺? なんか駄龍に話を振られた。すごく笑顔で俺に言ってきたので、駄龍は言ったことを肯定してほしいのだろう。
だから俺は正直に答えてあげた。
「は? そんなキッチンいらないんだけど。強火しかないって、それだと中までじっくり火を通している間に表面焦げるじゃん。いらねぇし使えねぇよ」
「ひどっ!」
なんかドラゴンが涙目になっている。俺がドラゴンにいろいろといったのがうれしかったのか、サクレが笑みを浮かべていた。
ちょうど、ハンバーグを焼くためにかけていたタイマーが鳴った。
蓋を開けると、いい感じに焦げ目の付いたハンバーグが顔を出す。
ハンバーグのいい匂いが漂ってきて、涎が出そうになった。
ハンバーグをお皿に盛りつける。ポテトとコーン、あと軽い野菜を盛りつけた。
あとはハンバーグのソースなのだが、なぜか駄龍と駄女神にじっと見つめられる。
「ねぇ、ダーリンはどっちの味方。あとハンバーグが二皿しかないんだけど?」
「ねぇ、ダーリンさん。ダーリンさんは俺の味方だよね。だって人間だもの」
あれ、俺の名前がダーリンになっているんだけど。サクレはいいとして、この駄龍にダーリンって言われると、無性にムカつく。
「サクレ、この駄龍、さっさと転生させればいいじゃん」
「ああこれ、いいの? ハンバーグ楽しみにしているみたいだったから、待ってたんだけど」
ハンバーグを焼いていたフライパンの上にケチャップとソースを入れて火をかける。ハンバーグからあふれ出た肉汁と加えたソースが絡み合って、ハンバーグに取っ手も合うソースになるんだよな。
そんなことを考えながら、サクレに適当に返事をした。
「そもそもサクレと俺の分しか作ってないから、そこの駄龍の分なんて最初っからないけど?」
「…………え?」
なんかすごく驚かれているんだけど、別におかしいことじゃないよね。突然現れて俺の分も寄越せっていうこの駄龍が悪いよね。
「まぁそんなことだろうと思ったけど、っぷ、自分の分があると勘違いしちゃってるなんて、まさに駄龍の結末にぴったりじゃない。チョーウケるんですけどっ! ぴぎゃー」
「っそ、そんな……」
駄龍は、ほろほろと涙を流し始めた。なんか駄龍が泣いても全く心に響かない。けど、すごく食べたそうにしているので、俺は余った肉で再びハンバーグを焼き始めた。
焼き途中のハンバーグを見ながら、適当に駄龍の話に耳を傾ける。
「キッチンとして仕事をしている時、ダメキッチンとか、不良品とか、いろいろと言われました。そんなとき、たまに利用者が作っているハンバーグのにおい、このにおいを嗅げるときが、一番幸せな時でした。いつかハンバーグを食べたい、それを夢見て仕事を頑張ってきたのですが……食べられずに死んでしまい」
そりゃまあキッチンだし。キッチンになった後って、何喰って生活していたんだろうか。そもそもキッチンに就職ということ自体意味不明なんだけどな。
「転生する前に、一度はハンバーグというものを食べてみたいんです。最後のお願いです、ハンバーグを食べさせてくださいっ」
泣きながらいろいろと語っている間に、俺は駄龍の目の前にサクレのハンバーグを出してやる。
サクレが目を見開いてこっちを見た。
「ちょ、ダーリンっ。私のハンバーグっ!」
「はぐ、うめぇな。そこの駄龍、そのハンバーグ食っていいぞっ」
「ねえダーリン、私のっ! アレ私のっ」
サクレは俺が今新しくハンバーグを焼いていることに気が付いていない。
今作ってるっつうの。でも反応が面白いからあえて言わないで置いた。
駄龍は、ハンバーグを涙を流しながら楽しんだ後、サクレに転生させられた。
でも、最後の言葉が「ハンバーグは幸せの味がした」でいいのだろうか。いや駄目だろう。
ちなみに、泣きながら駄龍を転生させたサクレの目の前に、そっとハンバーグを出したら、サクレが涙を流しながら、「このハンバーグは愛の味がする」という訳の分からないことを言っていた。
……なんかすげぇ悪いことをした気分になってくる。サクレの分を後回しにしただけなんだけど。なんでだろう。
とりあえず、心の中で謝っておいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます