第二十五話~綺麗なお姉さんは大抵やばい~
鍋の中に、前に作った冷凍チキンブイヨンを鍋に入れ、火をかけた。
このチキンブイヨンは通常の作り方よりも煮詰めたので味が少し凝縮されている。そのため、多少の水で、ブイヨンを薄め、鳥のもも肉、軟骨、刻み葱、塩少々を加えて煮詰めた。
鳥のもも肉から脂が溶け出て、表面に浮いてくる。薄く濁った出汁からおいしそうなにおいが漂ってきた。
俺は今、ラーメンのスープを作っている。いやね、余ったチキンブイヨンの使い道を考えてみたんだけど、思いつかなかった。
一応鳥ガラで取った出汁なわけだし、醤油とチキンブイヨンを使って醤油ラーメンでも作れるのではないかと思った。
まあ、初めて作ったチキンブイヨンが、本当にチキンブイヨンなのか疑問を感じるが、これもチキンブイヨンだろう、きっと。
実際どうなるか分からないけど、ものは試しだと思い、実践しているわけである。
「なんかいい匂いがする。ダーリン、何作ってるの?」
「ラーメンかな。サクレも食べるか?」
「えー、ラーメン? カップの奴?」
「ちげぇよ。今回はスープを作ってみてる。試しに作ってみているだけだからうまいかは分からないぞ。あと、麺とトッピング類は市販で売られてそうなものを使用するけど」
「じゃあ食べる。正直、カップ麺って好きじゃないのよ」
「なんでだよ。あれもアレでうまいぞ」
しかもアレンジ料理なんかもできる。そういえば、じゃがりことさけるチーズでじゃがアリゴを作りました的なツイートが流れて来たことがあったな。
大抵の人はじゃがりこの上にさけるチーズをのせて熱湯をかける作り方だった。
あれもアレでおいしいけど、個人的にはゴージャスなじゃがアリゴのほうが好きっ。
チーズ味のじゃがりこの上にさけるチーズをのせて、沸騰させた牛乳をかける。あとニンニクとバターを少々入れて、最後にブラックペッパーをかけて完成だ。
このゴージャスな作り方、マジでうまいんだけど、発案者である料理研究家の動画以外に作り方を紹介しているとこ、見たことないんだよな。おっと、思考がそれた。
なんだっけ。あ、こいつがカップラーメンを嫌う理由だ。
「ダーリンには分からないわよ。このむなしさが」
「カップラーメンの何に虚しくなるかが分からん」
「いい、よく聞いて。どこどこ店監修的なゴージャスなカップラーメン、ダーリンも食べたことあるでしょう」
「そりゃまあ、食べたことあるけど。ぶぶかとか、あとぜんやのカップ麺はよく食べたな。ぜんやは近所にあったけどいつも並んでいたから、実際のは食べたことないけど」
「ダーリン、ここは天界なの。カップ麺は取り寄せ可能でも、本物は取り寄せ出来ないわっ! だって私たちが店に行けるわけじゃないもの」
「なっ!」
「お店の味を再現したカップ麺はね、本物を食べたくなるの。カップ麺でこんなにうまいんだから、店だともっとうまいんだろうなと妄想を膨らませた経験、ダーリンはないかしら」
「……確かに、ある、あるよその経験っ!」
カップ麺を食べてお店を知り、実際に食べに行くなんてよくあることだ。
大体、あの手のカップラーメンは、うまい以外にも店の宣伝という目的がある。
カップラーメンを食べると、本物も食べてみたいと思ってしまうのだ。
「この場所で、お店の味を再現するのは不可能なのよ」
「っく、わかってはいたさ。だけど、なんてつらい現実なんだ」
ここは天界。つまり、お店のラーメンはどうあがいても取り寄せ出来ない。
つらい現実が、ここにあった。
「なら、俺がうめぇラーメンを作るしか、ないんだよな」
「ダーリン、期待してる、頑張ってっ!」
「おう、任せとけっ!」
今回はなんちゃってブイヨンラーメンにするつもりだったけど、今度本格的に作ってみようと思う。
俺がスープの準備をしながら麺を茹でていると、サクレの隣に一人の女性が座った。
「店主さん、ラーメン一つ」
「…………あの、ここラーメン屋じゃないんですけど」
さっきまでラーメントークしていたせいで、ちょっとだけ反応が遅れてしまったが、ここはラーメン屋じゃない。
だから注文されても困るんだけど。
「…………っは! あなたは、迷える魂っ」
いつも思うけど、ここに来る魂たちはいつも唐突にやってくるよな。
「なんだ、ここ、ラーメン屋じゃないんだ。だったらここどこ?」
「えっと、天界で、転生の間なんか呼ばれているところです。んで、そこにいるちびっこが転生神」
「ちょっとダーリン、人のこと指差してちびっこって失礼じゃないのっ! ぶー」
「このちみっこが転生神…………」
唐突にやってきた女性はサクレの顔をじっと眺めた後、大きなため息をはいた。
「なんだ、ロリっ子かー。こういう転生展開っていえば、やっぱりショタ神じゃないの。私は女なんだからもうちょっとサービスしてくれてもいいじゃん……」
女性は「うわぁ、最悪」と呟きながら、結構マジで嘆いていた。
そんなにショタが……こいつショタコンかっ!
よくニュースでロリコン野郎が、的なものを見かけることもあるが、実は表ざたになっていないだけで、ショタ女事件も同じ頻度で起こっている。
幼気な少年が、小さい子しか愛せない残念な飢えた野獣たちに襲われるのだ。
ただ、少年たちは多大なサービスを受けている為、不快感は覚えず、事件が発覚しないだけである。
なぜ俺がこんなことを知っているかって。
身内にいるからだよ、ショタコンの姉が。しかも、「この前近所の少年食べちゃったっ! あとあの小学校の男の子とデートに行くんだ」と訳の分からないことを言っていた時期もあったが……まさかな。
この女も姉と同類の人間だろう。
「んで、私はいったいどうなるの。転生するの」
「え、あ、うん。あなたは死んでしまったから、魂を転生しないといけないの。好きな世界に転生させてあげるから、要望を言って貰えないかしら」
「ショタがいる世界」
「「うわぁ…………」」
この女は、欲望垂れ流しだった。口を開けばショタ、ショタ、ショタ。どんだけ好きなんだよ。まだ腐っている女子のほうがいいよ。ショタコン犯罪。
「とりあえず、これでも食べてくれ。そして、今までの罪を洗いざらいはいちゃいな」
俺はラーメンを女性の前に置く。
ちなみに味見はしていない。さて、どんな味になっていることやら。
「あらありがとう……ってちょっと待って。私別に犯罪を犯したことなんてないわよ。あれは同意があったんだからっ」
「同意があれば許されるってもんじゃねぇぞ」
「まあ過ぎたことは気にしない、あ、このラーメンおいしい……」
「いや駄目でしょう、ショタ犯罪」
「ねぇダーリン。どうしよう」
「どうしたサクレ」
「ショタの世界、あるんですけど」
…………え。
要望を応えて、この性犯罪者予備軍のこれを転生させるの。
なんかまずい未来しか見えないんだけど……。
「よし、私、やるわ」
「サクレ、本当に大丈夫なのかよ」
「大丈夫よ。もしこの人が犯罪を犯したら……」
「ゴクリ、犯したらどうなるんだよ」
「地獄に落ちるわ」
「死ぬ前にたくさん犯罪が起きる予感っ!」
サクレは何か決意したような表情になり、女性の前に仁王立ちする。
やめろ、それを送るな。
「あなたをショタの世界に転生させてあげるっ。感謝しなさい」
「え、ほんと? 本当にそんな世界があるの」
サクレは無言でうなずく。女性はゆっくりとサクレの手を握り「好き……」と一言呟いた。
その言葉を聞いたサクレは、少し顔を赤らめて「私にはダーリンが……」なんて返事をしている。
おめぇ、転生神としてのやる気を出せよ。
「じゃあ送るよっ」
「転生神様、ショタじゃないと言ってごめんなさい。素敵な世界に転生してくれてありがとうっ! 私、幸せになるわ」
「欲望は我慢するのよ。お幸せに」
サクレが送り出してはいけないものを送り出してしまったようだ。
あの性犯罪者のショタコン野郎を本当に送ってしまってよかったのだろうか。
すごく不安だ。
後日、彼女がどうなったか確認したところ、意外と平和にやっていた。
よかった、犯罪者にならなくて。
俺はサクレにコブラツイストをきめながらホっと一息ついた。
「いだだだだだだだ、ごめんなさーい。今度はもう少しちゃんとやるから、犯罪者予備軍を犯罪をおかしそうな世界に送らないように気を付けるから、痛いのだけはやめてーー」
反省しやがれっ!
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