第十四話~お嬢様はくじけない~
いつものように迷える魂がやってこず、暇な時間を無駄に過ごしていた。
サクレは、24時間麻雀をやったせいで、まだ眠っている。
と言っても、サクレが寝てから、すでに8時間経っているので、そろそろ起きてきてもいいころだ。
俺は、目覚めのスープでも飲もうと、細かく切ったニンジン、ベーコン、玉ねぎをマグカップに入れて、レンジで2分、その後に牛乳、バター、コンソメを入れて2分レンジでチンする。
マグカップで出来る簡単濃厚クラムチャウダーの完成だ。
俺はもうちょっと塩気を足したいので、ブラックペッパーを少々つけたした。
とある料理研究家がツイッターで呟いていたレシピだけど、これが結構おいしくて、割と頻繁に作っている。
暖かなスープが喉を流れ、体を温めてくれる。
ほっと一息つきながら、俺はテーブルと椅子を召喚して、そこに座った。
久しぶりにテレビでも見るか。
ここに来て、テレビなんてあまり見なくなったけど、たまにはいいよなと、自分に言い訳して、60インチの液晶テレビとリモコンを取り出す。
「電波がないから映りませんとか、天界はNHKに通信料払っていないので見れませんとか、そんなことないよな」
そんなどうでもいいことを呟きながら、俺はテレビをつけた。
最初に映ったのは、アニメのコマーシャルだった。
『私の名前は
でも、お父さんが事業に失敗して、お母さんが悪徳宗教にはまったせいで、会社は倒産の危機、大ピンチっ。
こりゃもう、身を売るか死ぬしかないな、そんなことを思っていた私の元に、秋ノ宮学園の特待生通知書がやってきた。
なんとただで、超有名企業の子息令嬢が通う、超お坊ちゃまお嬢様学校に通えるらしい。
これはチャンスだと思った私は、会社に援助、欲を出せば玉の輿を狙えるんじゃねぇなど思いながら学校に入学した。
そこで出会った、
これで私の未来も安泰だ、そう思っていた矢先にあいつがやってきた。
北条院財閥のご令嬢という、すげぇお嬢様、
彼女は春昭君が好きで好きでたまらない様子。私が彼と付き合っているからと、むきになって突っかかってきた。
相手はやばい大財閥のご令嬢、こちとら没落寸前の社長令嬢。立場が違い過ぎる……。
でも、私は絶対に負けない、彼と一緒になって、絶対に幸せになるんだからっ。
お嬢様はくじけない、毎週金曜日、夕方5時30分より絶賛放送中。
「な、なんで、お嬢様がプロ級のフレンチを作れるの。でも私は負けない。こっちは肉じゃがだっ!」
麗華様との本気のバトル、絶対に見逃すなっ!』
…………なんだこれ。
もし、クラムチャウダーを口に含んでいたら、間違いなく噴き出していた。
しかもなんで、穴あけ手袋をしながら令嬢同士が戦っているの?
話を聞いている限り、少女漫画風なストーリーかと思ったけど、流れる絵が、少年漫画みたいに激しい動きをしているんだけど。
なに、もうすぐ没落超ピンチ、ニコって。笑うところじゃないから。
それに、なんかたくましいな。あわよくば玉の輿狙っちゃえって。
ツッコミどころが多すぎて、呆然としていると、サクレが目を覚ました。
「うぅ、ふわぁああ、よく寝た……。あ、ダーリン、何飲んでいるの」
「クラムチャウダー。簡単だからすぐにできるぞ。サクレも飲むか?」
「飲む~」
サクレは椅子に座って、机の上でぐでぇっとする。
まるでぐでぇっとした卵のキャラみたいだ。
いや、あのキャラクターよりかわいくないからな。あのキャラに失礼だったかもしれない。
できたクラムチャウダーをサクレの目の前に置くと、彼女はゆっくりとコップを持ち上げて、ちびちびと啜った。
「すごく濃厚、おいしい……」
「そりゃありがとう。にしても、あまり迷える魂が来ないな」
「24時間麻雀をやるぐらいだしね。でも、お客さんがいるんじゃ仕事しないとね」
「お、サクレがやる気を出すなんて……、ちょとまて、今なんて言った」
「えっと、迷える魂がそこにいるから仕事しないとって」
え、どこにいるの。
俺には全く分からなかった。一体どこにいるのだろうと思ったのだが、その人物はあっさりと見つかる。
なんか俺の隣ですげぇお嬢様っぽい女の子がクラムチャウダーを飲んでいるんだけど。
俺、用意した記憶すらないんだけど、一体いつからいた?
もしかして、幽霊?
「ダーリンが思っていること、なんとなくわかるよ。でも幽霊って……、ここ天界なのに、っぷ」
「サクレ、アキレス腱固めとアイアンクロー、どちらか選ばせてやる」
「ちょ、なんでサブミッション。もうちょっとお手やわらかにして」
俺はにこやかに笑いながら「無理」と一言。
「ぎゃーーー、ごめんなさいダーリン」
「それより仕事するんだろう。ごめんな、駄女神がうるさくて」
隣の女の子にさりげなく声をかけた。
すると彼女は俺を真っすぐ見て、にこりと笑う。何だろう、とても美人過ぎて、一瞬ドキッとした。サクレには絶対に言わないでおこう。
「大丈夫ですわ。それに、にぎやかなのはいいことだと思いますの。静かなところだと退屈でしょう。
あ、自己紹介がまだでしたね。私は北条院 麗華と言いますの。
よろしくお願いしますね」
「ええ、よろし…………は?」
イマナンテイッタ。
彼女、自分のことを北条院麗華とか言わなかったか。まさかさっきまで見ていたコマーシャルの悪役令嬢? ポジションのキャラが目の前に来るとは思ってもいなかった。
「おいサクレ、これはいったいどういうことだ」
「どういうことだって、事情が全く分からないんですけど」
「俺だって分からねぇよ。さっきまで見ていたテレビのキャラクターが目の前にいるんだよ」
「え、そんなこと。いるに決まっているじゃない。だって無数に世界が存在しているのよ。人が思いつく程度の世界は結構実在するわ。時々、これ別世界の史実なんだけど、どうしてこの人知ってるんだろうって、時々怖くなるもん」
「よし、あとでアイアンクローとアキレス健固めな」
「ぎゃあああああ」
サクレはなんで自分が理不尽なことになっているのかよく分かっていないようで、地面に四つん這いになりながら「なんでぇぇぇぇ」と嘆いていた。
ゴメン、最近お前をおちょくるのが楽しいと思っている自分がいる。
「んで、麗華様は「様はいらないわ、麗華って言ってちょうだい」……麗華はどうしてここに」
「それが……あの憎き女、八重城奏とバンジージャンプ度胸勝負をしていたんですが、ひもが切れてそのまま落ちました。
最後に見えたあのあくどい笑み……忘れられませんわ」
やべぇ、主人公が悪人だった件について。
もしかしたら、奏という主人公が、麗華がバンジーしたときにひもを切ったのかもしれない。
どんだけ自信ないんだよ、主人公。
「それで、あそこで四つん這いになっている彼女が君を転生させるんだけど、何か望みはあるか」
「そうですね、では一つだけ」
「お、あるんだ。なんだい」
「はい、とても大事な願い事がございます。私を同じ世界、同じ環境に転生させてください。今度こそ、あいつに勝つのです」
「いや、それはさすがに「できるよっ」できな……出来んのっ」
さすがにできるとは思っていなかったので、驚きのあまり声を荒げてしまう。
まあ別に荒げたっていいんだけど。
「じゃあ君を元の時間軸に転生させてあげる。今回はサービスとして記憶継承もつけておくね、頑張って麗華っ」
「はい、女神様。私は大好きな春昭君のために、あのゲス女と戦います。ありがとうございます、女神様っ!」
麗華は光の柱に飲み込まれて、消えていった。
あのゲスすぎる主人公の話を聞いた後だからこそ強くもう。
頑張って麗華が勝ってほしい。
俺はサクレにアイアンクローをしながら、消えゆく麗華を見守った。
「この扱い、納得できないんでけどっ」
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