第十三話~この目つきとさよならを~

「ふっはっは、我が紅蓮の劫火で焼かれるがいい。その炎に包まれたからだでは何一つ出来ん。己が無力さを噛み締めながら、我が炎で苦しむがいい。貴様から滴り落ちる脂で我が炎が躍る踊る、さぁ、炙り、焼かれ、苦しみ、我が糧となるがいい。そこだぁっ」


 サクレは、網で焼かれたホルモンを箸で掴み、たれに付けてそのまま口に含んだ。


「はぐ、ほぐ、うん、おいしいっ!」


 何もやることがない俺たちは、焼肉をしていた。

 最初はタンから始まって、その後は適当に食べるかなと、肉をいろいろと焼いていた。

 定番のカルビだったり、ピーマンや玉ねぎなどの野菜、とんトロなどのメジャーなところを食べ続けた。

 約1時間ほど食べ続けた後、サクレは言った。

 中身が食べたい。

 最初は意味が分からなかった。ちゃんと説明をしてもらうと、どうやら内臓系が食べたいとのこと。

 それからはゼンマイ、大腸、小腸、レバー、ハツなどの内臓系を焼きまくった。

 サクレは「おいしいおいしい」と言いながら、食べまくる。

 俺も、牛筋やら豚足を焼いてつまんでいた。

 肉を焼きながら思う。


 サクレ、お前もうちょっと落ち着けよ。


 肉を焼いている時に、いきなり中二病っぽいこと言い出すし、肉を指差して笑い出すし、もう頭が痛くなってくる。

 何なのこの子、すごく残念な子なんだけど。


「はぁ……」


「どうしたのダーリン、溜息なんてはいちゃって。幸せが逃げるんだよ」


「女神、チェーンジ」


「ちょっとどういうことよっ」


「そういうことだよ」


「わかんないわよ。なんで、なんで私を捨てようとするの。私とイチャイチャしてよ、愛し合ってよ、私と甘い新婚生活しましょうよっ」


 本当に、顔は、とてもいいんだけどな。スタイルはまあ、一部残念なところはあるけど、なかなかいいほうだ。

 どこかのモデルと言ってもいいぐらいだ。だけど、中身がなぁ……。

 これはないと、俺の魂が叫んでいる。今の俺は魂だけの存在みたいなものなんだけどな。


「食事中はもうちょっと落ち着け」


「……うん、わかった。初めての焼肉ではっちゃけ過ぎました、ごめんなさい」


「素直でよろしい。ほら、こっち焼けたぞ」


「わーい」


 うわ、ちょろ、もう機嫌治ったよ。

 こうやって素直に非を認めて謝ってくれるだけありがたい。

 どこぞかのライトノベルに登場する駄女神は、甘やかせだの楽させろだのとさんざん喚き散らしてる割に、失敗しても非を認めない真の駄女神と言われるべき存在がいる。

 その駄女神に比べたら、うちの駄女神のほうがまだましと言えるだろう。

 うん、言えるはずだ、そう信じたい。


 俺は、あらかじめ下処理を済ませた牛筋を網の上に置いた。


「あ、あの……」


 これがまたうまいんだよな。ただの煮込みでもおいしいんだけど、焼いた牛筋はプルンとした感触と、焼いた時の歯ごたえがすごく好み。


「ねぇ……」


「お、サクレ、こっちの牛筋焼けたぞ、食べるか」


「いるー。牛筋ってなんでこんなにおいしいんだろう」


「それな」


 下処理に2時間かかるけど、それが苦にならないほどうまいからな、牛筋は。


「すいませーん」


 そろそろ食後のデザートでも用意してやろうかと思った。

 一応プリンを作ってあるけど、サクレの奴、食べるスピードが落ちていない。


「ダーリン、御飯お代わり」


「お前、少し食い過ぎじゃねぇ、今ご飯何杯目だ」


「えっと、7杯目……かな?」


「食いすぎだよ……」


「ちょっと、聞いて……」


 こいつ、もうそんなにご飯を食べてやがったのか。これだけ食べて一切太っていないっていうから不思議だよな。

 もし、地球とかにこんなのがいたら、全女性が親の仇でも見るかのように睨むんだろうな……。


「ちょっとっ、いい加減こっちに気が付いてくださいっ」


「「うわっと」」


 急に怒鳴り声が聞こえて来たので、俺とサクレは体をビクつかせた。

 一体なんだと、二人で声が聞こえて来た方向に視線を向ける。

 そこには、地獄の番犬すら生ぬるいと感じる恐怖の目がそこにあった。


「「ぎゃあああああああああああああ」」


 俺とサクレは思わず叫んでしまう。

 やべぇ、怖い。


「ぎょええええええええええええええ」


 サクレはまた声をあげる。次は別の理由で、サクレが大切に焼いていたホルモンが地面に落ちたのだ。

 そりゃ叫ぶわな。あれ、時間かかるし。


「そ、そんなに怯えなくても……」


「ああ、悪い悪い……ひぃ」


 前髪で隠れている目、だけど隠れているはずなのに分かる、その眼光、睨むだけで人をも殺せそうだ。それほど彼女の目には迫力があった。


「いいです、慣れてますから。私は生まれつき目が鋭くて」


「いや、なんか、本当にゴメン」


 ちなみにサクレは、落ちたホルモンに黙祷を捧げていた。

 いや、そんなのいいから、さっさと捨てろよ、じめんに落ちたやつだぞ。

 そんなことも思ったが、こいつが話始めると、いろいろと面倒だとも思ったので無視することにした。


「あの、ここってもしかして、転生が出来る場所なのでしょうか」


「ああ、そうだよ。あそこでホルモンにジャンピングドゲネをする女の人がいるだろう」


「う、うん。本当にいた……」


「あの人が神様なんだ」


「…………ぇ?」


 なんか、信じられないものでも見るかのような顔になった。

 その表情には俺も納得している。

 サクレは一通りやりたいことが終わったのか、こちらにやってきた。


「ようこそ、迷える魂さん。ここは転生の間。貴方の魂をあなたの望む世界に転生させてあげましょう」


「ほ、本当ですかっ」


「ひぃ」


 サクレはあの眼光にビビって、隠れた。でも俺が声をかけるとすぐに出てくる。


「ご、ごめんなさい、怯えてしまって。でももう大丈夫です」


「ほ、本当にですか?」


「本当に大丈夫です。私には、ダーリンとの愛の絆があるからっ」


 そんなもんねぇよ、と思ってしまったが、口に出さなかった俺は偉いと思う。


「それで、君の望みは何?」


「私、この目でずっと苦しんできたんです。学校でもマフィアとかヤクザだとか言われて、周りからはぶられて独りぼっち。私は……この鋭い眼光を放つこの目が嫌い。私は、友達が欲しいのです。だけど、こんな目があるせいでずっと一人ボッチでした」


 そんなか細い声でボッチ宣言するのはやめてほしい。なんか心が痛くなる。


「わかりました、あなたの願いを叶えましょう。もしよければ、あなたの進む行く末に幸があらんことを」


 サクレの言葉と共に、少女は白い光に包まれて、転生してしまった。

 もうちょっと願い事についてすり合わせをしていたなら、あの目以外のボッチの原因、対人スキルを身に着けさせることも可能ではないだろうか。


「ふう、仕事した後は、やっぱり肉だね。ホルモンと牛筋を焼こうかな」


 そんなことを呟きながら、おいしそうな肉を眺めていた。

 サクレ、お前もうちょっと転生される迷える魂に興味を持とうぜ、と思ったが口に出して言えなかった。

 いまは喜んで焼肉を食べているので、そっとしてあげよう。お説教は、これからだ。

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