第5章 地球の危機VS魔法世代 その12

 驚きと焦りを隠して神崎は振り返った。校門に見憶えのある顔とない顔がたくさんあった。

 そこには神崎たちの同級生がぞろぞろと。

「魔法世代……! これで、地球は救われる」

 レーザーで動けなくなっていた兄が、わずかに頭を上げてつぶやく。目にはどこか安心しきった色がある。

 すると、校門にいた半数が「きゃー!」と悲鳴をあげてから駆け寄ってきた。

「真実君!!」「なに、なにがあったの!?」「お願い……死なないで」

 黄色い声がやかましい。

 痛い思いをして圧力との攻防をしているのに、野次馬が増えただけならいっそ帰って欲しいとさえ思う。

「……頼む。君たちも彼らのように両手をあの彗星に向かって上げて欲しい。僕のことをおかしいと思ったって構わない。だから、お願いだ」

 苦しげな声で、周りを囲む百以上の女子に懇願する。

 みんながみんな顔を見合わせたあと、

「うん。真実君のお願いなら!」

 全員が一斉にうなずいた。

(そんな、バカな……)

 信じられなかった。まさか、こんなオカルト全開の状況でいともあっさりと全員――女子――が彗星を防ぐことに異論を挟まないとは。

 もちろん彗星を防ぐとはまだひとことも言っていないが、状況を見れば兄の意味するところがわかる可能性もある。それにも関わらずにだ。

「うらやましいな……」

 山村がぼやく。女子全員に囲まれたら、男なら誰しもがそう思うものだろう。

 反感。男子にそれが芽生えていることが容易に想像できた。

「みんな、やるよ!」

 リーダーらしき女子が全員を促す。一斉のうなずきのあと、手がたくさん天を向いた。

 女子全員が加わったからだろうか、神崎にかかる負担が激減した。

「こりゃ、いいな」

 山村もそうなのだろう。急に片手にしたりしている。

「おい、ふざけているとまた苦しい思いをするぞ」

 神崎は眼鏡に釘を刺しておく。また倒れられてたまるものか。

 妹の歌声が流れる。そこからも力が流れているのか、神崎の体に力が溢れてくる。そしてそれはおそらくここにいる全員がそうだろう。

「オラッ、お前らチンタラやってんじゃねぇ! 俺たちもやるぞ! 女になんか負けてんじゃねぇ!」

 神崎が予想していたのとはまったく逆に、男子の集団のひとつが気合い入りまくりでやってきた。全員が全員金髪揃い。件の不良グループだ。

「真実さん、俺らも協力するぜ! あいつらも、協力しなかったらあとでぶちのめしてやるって言ってあるんで、だいじょうぶっス!」

(『さん』?)

 凄く気になった。

 不良が『さん』づけするのは、自分よりも先輩か格上の相手だ。同級生である以上、彼らにとって兄が格上の存在なのだと考えるしかない。

「ありがとう。……でも、暴力はよくないよ」

「了解っス! ……おい、お前らっ! 真実さんが困ってんだ! そこで指くわえて見てるだけか? あ? お前らそれでも男か! 人生ひとつくらい見せ場があったっていいんじゃねぇのか?」

 不良軍団の呼びかけに、いくつかの集団が引き寄せられた。こうなるともはや集団心理が働いて、次々と男子も中に入ってきて手を上げた。

 何人かがまだ残っている。不良の呼びかけに応えるつもりはないが、そこから離れるつもりもないらしい。

 神崎が考えるに、最後の良心と戦っているのだろう。

 自分はこんなバカげたことには関わりたくない、普通でいたいんだという、そんな良心と。

 妹のメロディが大きくなる。

 物悲しさが消え、暖かく包み込むようなものに変わった。

 すると、校門の外にいた男子が、まるでその歌に惹かれるようにして中に入ってきた。そして入ったことであきらめがついたのか、駆け寄ってきて手を上げる。

(どいつもこいつも……)

 バカだとしか思えない。だけど、自分の口が笑みをかたどっていることを神崎は知らない。

 懐かしい旋律を背に、総勢二百五十人近くの高校二年生が空に手を上げている。

 異様な光景だろう。

 いや、そもそも上空に彗星が待機したままなのだ。今さらそれ以上におかしなことなどない。

「みんなで念じてくれ。『彗星なんかに地球を壊されてたまるか!』 自分たちの居場所は自分たちで守るんだ」

 女子勢がうなずく。

 すぐに念じてくれたのだろう、彗星が大きく揺れて一気に高度を上げた。

 上空から睨みを効かせていた目が若干細められる。

「野郎ども! 俺らも負けてらんねぇ! 行くぞっ!」

 金髪のよく馴染んだ不良軍団のリーダーが叫ぶ。あとについて来いと言わんばかりの大音声。

「てめぇなんかに俺らの星を壊されてたまるかっ!!」

『壊されてたまるか!』

 男子の太い声が腹の底から響いてくる。

 女子に比べてスマートさがないが、それでも効果は抜群だった。

 すべての思いが大きな攻撃となり、彗星は激しい衝撃に震えた。あきらかに目に見える大きさが小さくなっており、開いていた目も閉じられた。

「なんか俺たち目立ってないな」

「ああ、そうだな」

 山村が眼鏡を片方だけ曇らせていた。

 言われてみれば、最初の苦労はどこへやら、圧倒的パワーで彗星は消え去ってしまいそうだった。女子リーダーと男子リーダーががんばってくれているおかげか、体の負担はまるでない。あとはどんどんと押していくばかりだ。

「もうひとふんばりだ。ここまで来たんだから、最後までやってやろうじゃないか」

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