第5章 地球の危機VS魔法世代 その7

 翌朝。午前五時。

 学校の校庭に神崎、真実兄妹の三人――いや、それに山村を加えた四人がいた。

 なぜ彼がここにいるのかは、彼自身がその口から説明した。

「なんだかよくわかんないんだけど、朝急に目覚めて、自分でもよくわからない内に学校へ来てた。そしたら真実ちゃんたちがいたからビックリしたよ」

(ビックリしたのはこっちのほうだ)

「……君も名残があるからかな? 来ちゃったものはしかたない。君にも協力してもらうだけだ」

 名残とは目標になっていたことか。それとも他の理由なのかもしれないが、神崎にはそこまではわからない。

「協力? 俺がなにをどう協力するんだ?」

 突然の協力要請に山村が目を白黒させる。眼鏡がちょっとずり落ちているのは朝だからなのだろうか。

「サポートをしてもらいたい」

「サポート? どうすればいいんだ?」

「簡単だよ。空に向かって念じていればいいだけだから」

 それは神崎も初耳だった。空に向かって手を上げていればいいとは言われたが、それだけだ。念じるとは一体なにを。

「『絶対に来させるか!』という感じでやればいいよ」

「来させるか? ……! まさか、彗星のこと!」

「凄いね。正解」

 まさか彗星を念だけで弾き返すとは思ってもみなかったのだろう。山村の眼鏡が若干曇る。だがすぐに、キラリン、怪しい光が走る。

「神崎、お前もそうなったのか」

 そう、とは『電波』のことだろう。

 山村は神崎が魔法や超能力を嫌っていることを知っている。その神崎が、その真っ只中にいるのだ。『電波』の仲間入りしたと考えるのが妥当なところだ。

「……お前、帰れ」

 うっとうしい。やたらと眼鏡を光らせているのが腹立たしい限りだ。

 だが、帰れと言われて帰る縁なしではない。

「いや、俺はお前の晴れ姿をこの目にしっかりと焼きつけておくよ。滅多に見れたものじゃないからな」

 含み笑い。でかい体を小刻みに震わせている。

「お前は眼鏡でも焼きつかせていろ」

 憎まれ口のひとつやふたつや三つや四つほど叩き込みたくもなる。

 自分の屈辱的な姿を見て楽しもうというのだ。許せるものではない。

「おい、あとどれくらいだ?」

 腹の立っている神崎の声は、山村のことを素通りした。

 兄は腕時計を見て時間を確認してから空を見上げた。

「もう来るよ。一瞬で視界が覆われるかもしれないから気をつけてね。僕が合図をしたら、君たちも空に手を上げて念じてくれ」

 全員が一斉に空を見上げる。

 日が完全に昇っていないからまだ薄暗い。

「お兄ちゃん、あたしはどうすればいいの?」

 心配そうな声。兄を見つめて手をグーとパー、交互にしている。

「愛はなにもしなくていい。魔法世代がちゃんとバックアップしてくれているから」

 ピクッと神崎の眉が跳ねる。まだ、完全に慣れたわけではないのだ。

 もう一度兄が時計を見る。

「……来るよ」

 刹那、轟音。いつどこから来たのかはわからない。目に見える視界いっぱいが彗星へと変化していた。

 明け方が一瞬で夜になったよう。やたらとでこぼことしている表面はなにやら蠢いている。これが甲殻を持つ死骸なのか。

 彗星は突然現れて、その場で停滞している。そんな動きをすれば激しい衝撃波が来そうなものだが、それもない。

 衝突の勢いだけで地球を破壊するわけではなかったのだろう。

「……これが、KF彗星」

 山村の声が漏れる。

 圧倒的に大きい。とにかく目に見える範囲すべてがそれだと言っていい。

 なぜだかとても彗星に見られているように感じる。どこにも目に当たる部分などない。それにも関わらず、神崎はさっきからずっと彗星からの視線を感じる。

 でこぼこの表面のひとつが、ボトリ落ちた。そのまま動かない。

「なんだよ……あれ……」

 山村の声が引きつる。ひとり事情を知らないのだ。無理もない。

「気にするな。あとで売れば金になるかもしれないものだ」

 彗星だったら欠片は貴重だ。今落ちたのは欠片は欠片でも、魔族の死骸だ。貴重を通り越すかもしれない。

「お前、よく平気だな……。俺、なんだか気分が悪くなってきたぞ……」

 眼鏡を曇らせて口を押さえようとしたその時。

「来る! ふたりとも頼んだよ!」

 真実兄が両手を空に上げる。

 追随するように神崎も両手を伸ばした。

 右手で口元を押さえながらも、山村もその動きに合わせてきた。

 見れば妹も同じポーズをとっている。

 なにも起きない、そう思った瞬間。

「……なっ!」

 信じられない重さが両手から腕、肩、背中、腰、足と伝わった。

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