第5章
第5章 地球の危機VS魔法世代 その1
新たな頭痛の種が増えた。
物理的な痛みはなくなったものの、精神的には非常によろしくない。
まさか自分が魔法使いになるとは思ってもみなかった。
大嫌いな魔法。それが使える身。
まるで信じられない話だ。
これで、自分も電波の仲間入り。ひどく屈辱的で、情けない。
「便宜上、僕はKF彗星と呼んでいるけど、実際あれは彗星でもなんでもないんだ」
電波のひとり――青髪の真実兄が言う。
制服以外の服装を初めて見たが、青い髪のせいか似合っていないように思う。どんな服装が合うか、一瞬そう考えてやめた。自分が考える必要のない問題だ。
「えっ! それじゃ、あれはなんなの?」
もうひとりの電波――赤髪の真実妹が訊く。
こっちは制服だ。制服が赤っぽいためか、赤髪とは割と合っているように思える。
「知りたいかい? あれは、魔族の悪意の塊さ」
「魔族の……悪意?」
「そう」
断言。
魔法に続いて魔族――つまりは悪魔とかそういった類のことだ。
ただでさえ、自分の置かれた状況をひどく悔やんでいるのに、周囲は勝手に話を進めていく。
「……それで、どうなるの?」
「聞きたいかい? やはり――便宜上彗星と言っておくけど――あの彗星が地球の危機であることには変わりはない。ひとたび地球に墜落してしまえば、もう僕たちではどうすることもできない。だから、その前に食い止める必要がある」
溜める。
「魔族が狙っているのは、地球を焦土に変えて怨念飛び交う素晴らしい場所にすることだ。もちろんそれは僕らにとっては地獄と言っても差し支えはない」
「……それが『楽園』なの」
「おそらく。魔族の考え方なんかわかるわけがないけど、きっとそのほうが彼らにとっては棲みやすいものなのだろう」
真剣な口調。兄からは飄々とした感じが抜けている。
事態は深刻になっているようだ。
ひとり置いてけぼりの神崎は、ようやく話の中に入ろうと思い至った。
「……で、俺はどうすればいいんだ?」
それが一番訊きたい。
魔法を得た身としては、その力を存分に使いたい。いや、使いたいというよりは使うしかない、だ。そうでなければなんのために電波の仲間入りをしたのかわからなくなる。
「君は来る時が来たら、片手を――もちろん両手でも――天に向かって掲げればいい。その時に同時に彗星に打ち勝つ意思が必要だ」
「その時はいつだ?」
「三日後、かな。おそらくもう加速することはない。遅くても三日以内には来る」
つまり、地球の寿命は残すところあと三日になっていたのだ。
半年ってなんだったんだ――それが神崎の実感だ。
「……わかった。それで、もし三日以内に俺が国外に逃亡したらどうなる?」
意地の悪い笑みを浮かべてみる。
兄は自分の手助けが必要だと言っていた。その大事なパートナーが大事な時にいなくなったらどうなるのだろう。少しだけ興味のあることだった。
「どうにもならないよ」
答えはあっさり。
神崎は探るような視線を送り込む。
「たとえ君がどこへ行こうとも、僕も、彗星も、君を見失うことがないからだ」
「……どういうことだ」
(監視されている、というのか?)
神崎の表情が不機嫌に染まる。
「確かに君の考える通り、『監視』が一番近いかもしれない。実際には彗星からは君が丸見えだ。むしろ見えていないと彼らは困ることになる。僕の場合も似たようなもので、君がどこにいるかなんとなくわかってしまうんだよ」
「逃げ場なし、か」
「目標になっている以上ね」
もとから逃げるつもりなどなかったが、一応訊いてみただけのことだ。
おそらく今からパスポートなど取れないだろう。
神崎の両親は割と間際まで用を済ませないことが多い。急展開をし続けた彗星衝突危機の準備もほとんでできていないに違いない。
しかも、たとえ海外に逃げたところで意味はなさそうだ。彗星が本当は彗星ではなくて、魔族の悪意の塊だというのだから性質が悪い。彼らは地球を焦土にしたいのだろうから、無事だった場所もいずれはそうではなくなるのだろう。
「目標?」
妹が割り込む。
確かに神崎も気になった言葉だ。思えば山村もどきもそんなことを言っていた気がする。
「彼らは目標がないとうまく直進することができないんだ。それは悪意についても同じ。そして、その目標にたまたま選ばれたのが君の友達だったんだよ」
「山村が、か」
「そう。簡単に言ってしまうと、彗星は目標を中心点として突っ込んでくる。だから、君がどこへ逃げようとも彗星は必ず君のいるところに来るんだ」
「……? 目標は山村だろ?」
ついさっき兄自身がそう言った。『選ばれたのが君の友達だった』と。
(……『だった』?)
「今の目標は君さ」
(そう来たか……)
なら、本当にどこへ行こうとまるで無駄だ。兄の話通りにことが進めば、彗星を神崎が食い止めないと、神崎を中心として地球に大穴が開くことになる。
自分には逃げ場がない。
それは恐ろしいことのはずだが、割と平然としていることに驚く。
「君に襲いかかっていた頭痛。あれの正体が目標変更の副作用だろう。彼らは君の友達よりも君のほうが、より目標としての反応が大きいことがわかったんだ。相当弱っていたからね、彼は」
決しておもしろい話ではない。でも、兄は爽やかに笑う。
どこか釈然としないものがあるが、そうなっている以上、なるようになるしかない。
自分が彗星――魔族の悪意の塊――の衝突を食い止めて地球の危機を救う。
言葉にしてみると非常に滑稽に思える。
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