特別編 OLなんだよっ小町ちゃん!
むかーしむかし。ある居酒屋で一人のOLが仕事を愚痴っていた。愚痴を聞くのはいつもいつも、OLの先輩である安川だった。
「だからァ……考え方が古いンッですよっ! あの頑固ハゲ!」
ジョッキ一杯のビールをイッキに流し込みおかわりを要求する小町とは対照的に安川はチビチビとグラスの茶を飲んでいる。
「相星……いつも言ってるけど、明日死ぬぞ」
小町はこのように何か嫌なことがある度に安川を連れ出し、豪快にビールを飲んでは二日酔いで顔を青くしているのだった。
「いいでしょう……きょうくらい……ケチくらいこと言ってるとけっこんできまてんよぉ……」
「余計なお世話だよ……」
「とか言ってぇ! 本当は彼女くらいいるんでしょう! ズルいぞ! この女ったらし! 生粋の遊び人!」
わははははは、と快活に笑った小町は運ばれてきたばかりのビールをイッキ飲みした。
「そうやっへ……ひっ……みんな私を置いていくんだぁ……うぇぇ……」
「始まった……おっちゃん! 今日はこんくらいで」
勘定を済ませると居酒屋の主人が酔い潰れて立てなくなった小町を見て優しく微笑んだ。
「いつも大変だねぇ……ヤっさん、お前さんが貰ってやったらどうだ」
「はは……そうしてやれたらいいんですけどね。こいつの気持ちもありますから」
小町に肩を貸しながら安川は暖簾をくぐっていった。
「お前さんだけだぜ。その気持ちに気付いてないのは」
「うへぇ……酔ったぁ……」
ふらつく小町を支えながら、なんとか小町の住むマンションの部屋の前まで辿り着いた安川は小町の鞄から部屋の鍵を取り出してドアを開けた。
「ったく……他人に開けさせてんじゃねーぞ」
最初こそ罪悪感があったが、さすがに毎日のように繰り返しているとそれも無くなる。
「ほら、着いたぞ……」
一向に起きる気配のない小町に安川は大きめのため息を吐いた。
「……せんぱぁ……フゴっ」
「あ、おい……」
しがみついて離れない小町を無理に引き剥がすこともできず、安川は小町を赤ちゃんみたいにしがみつかせたまま、玄関に座り込んだ。
「……お前さぁ、俺と」
「うん……?」
…………。
……。
「…………ほら、もう帰るから。起きろー相星ィ! 起きろっ! 風呂入れ! 寝ろ!」
「んむぅ……ふふふ」
幸せそうに眠っている小町に安川は小さく呟いた。
「明日も、頑張ろうな」
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