最強に恋して その2
いつも考える。
僕は彼女にどれだけ近づけているのだろうかと。
「隙ありっ!」
つかちゃんの足払いで、僕の体が宙を舞う。容赦なく突き出される拳に、道場の後ろまで吹き飛ばされる。
「ちっ、いなされたか」
実際問題、僕がどれだけ強くなろうとも、それこそ世界を恐怖に陥れるほど強くなったとしても、それで由乃より強くなったかと言われればYESではない。
「ッ! あぶねッ!」
だが、別にそれは由乃がそれ以上の強さを持つ可能性がゼロではないという確率の話ではなく、僕が実際に由乃のことを、世界に影響を与えるほど強いと思っているからだ。
「ハッハー! 視える! 視えるぞ!」
仮に、もし、万が一、由乃がそれほど強かったとして、僕は果たして彼女に追いつけるのだろうか。
この努力は全て無駄で、やっぱり、学歴社会を利用して彼女を倒すしかないのだろうか。
「おいおいどうしたァ! そんなもんか真壁!」
そう考えると、体から中身が減っていく。僕は大人たちのように未来を見る気はないし、いつか役に立つかも、なんて前向きな気持ちにはなれない。
目標に向かわない努力の辛さと空虚さに僕は敵わない。だから、少しだけ確認したい。努力の行き先と目標の在り処を。
「決めた」
つかちゃんの攻撃を払いのけると、僕は決意を胸にした。
「おおっ……な、何を」
「明日、由乃に挑む」
その言葉を聞いたつかちゃんは一瞬、間の抜けた表情をした後思い出したように口にした。
「あ、そういえば真壁って浅沼が好きで鍛えてるんだっけか」
この数ヶ月間、僕はそのことしか考えていなかったが、案外周りからはただ鍛えているだけに思われていたのかもしれない。
「いやだって、最近浅沼と話してねえだろ、お前」
「…………え?」
「鍛え始めてから浅沼と話してるところ見てないぞ」
そ、そういえば、最近……いや、そもそも由乃の顔さえ見ていないような……。
「まぁ、でも今の真壁なら結構いいところまで行くんじゃねえか」
頭の中の彼女は靄がかってその姿を不確実なものにしていた。
「そういえば、そうだな」
目標へ向かうどころか、目標を見失ったことにさえ気付かなかった。僕はなんて愚かなんだ。
「浅沼とやるんなら今日は早めに切り上げるか」
「……いや、僕は大丈夫……」
つかちゃんはさっさと道場を出て行ってしまった。
……気を遣わせてしまったな。
帰り道、空を見た。
なぜだか、とても懐かしく感じて奇妙だった。空も……見えていなかったな。
思い返してみれば友も、想い人も、何もかもが霞のような毎日だった。
「難しいな……青春というのは」
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