第31話

 今日も直樹は郵便受けから引き抜いた新聞をその場で読み始めた。一面の見出しに目を通していると、「旦那ぁ」と加賀がやって来る。


「そういえば、しばらくここを離れることになってね」

「え」

 今日も利智は加賀を睨みながら、直樹の足元にしがみついていた。


 明け方まで雨が降っていたせいで、町全体が湿っている朝であった。新聞を小脇に抱えて昨日の出来事を加賀に説明した。

「そういうことで、実家に戻らなきゃいけなくてね」

「うわ、苦手な人が迎えに来て道中も一緒ってマジ気まずいっすね・・・いつ帰って来られそうっすか?」

 へらり、と苦笑いをしつつ加賀は頬を掻き、直樹にカゴを手渡す。

「一週間くらいで帰れたらいいな、とは思ってるよ」

「早く終わるといいっすね〜」

 努力はするよ、と直樹は肩を竦めた。加賀から受け取ったカゴの中には熟れる手前まで赤く染まった蕃茄トマトが積まれていた。首無し男のナシオからのお裾分けらしい。


 着物の裾にぶら下がる利智に赤い実を一つ渡せば、勢いよくかぶりつき周囲に果汁が飛び散る。結局、汚れてしまった着物を一瞥し直樹はカゴを抱え直した。

「・・・挨拶も済んだし、荷造りするか」

「きのりしないねー」

「まぁな」

 夏空に浮かぶ入道雲。町が乾き始めたのを背に直樹達は家の中へと入っていった。

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