第27話
夜が明けても雨量は変わらず、大粒の雨が窓を連打する。今日は風も強いようだ。薄暗く湿った部屋で直樹は、客人である同い年ほどの青年と顔を合わせていた。
青年の名は
「・・・本当に帰らなくてはいけませんか?」
「はい。今まで何の連絡もせず放蕩していらした分の謝罪と誠意を見せていただきたく、お願い申し上げに参りました」
「はぁ・・・・・・・・・」
草枷の棘を包み隠さず、かつ上辺だけは腰を低く見せる慇懃無礼な言葉遣いに着物の端を握る。直樹は草枷が苦手であった。
「・・・僕には僕の、ここでの生活があります。黙って家を出た事や今まで何も連絡をしなかったことは謝り、ます」
語尾が尻すぼみになり、目線が段々と下がっていく。それでも、自分の家はこの薄汚れた洋館なのだと言い切る。
「私に謝られても困ります」
いや、そうじゃなくて。
草枷はその場を微動だにしない。沈黙の中、返答を躊躇っている直樹を責めるかのように窓に雨が叩きつけられる。
「――― わかりました。ただ、一時帰宅という形を取らせてもらいます。僕の用事が済んだらまたこの洋館に帰らせてもらいます」
「そうですか。では、明日お迎えに上がります」
「いや、二日後でお願いします。長期不在になることを知らせなければならない方が数名います」
数名というか加賀に知らせればいいだけなのだが、少しでも猶予が欲しくて出発日の交渉を試みる。
「そうですか。では、二日後にお迎えに上がります」
思っていたより、すんなりと提案が通ってしまった。三日後にすれば良かっただろうか。草枷がやっと帰ろうとしてくれたので、直樹も後をついて行こうとして、
「あの、玄関まで送っ」
「結構です」
断られてしまった。
自室から玄関の扉が閉まる音を聞いた直樹はベッドに倒れ込む。
「んぎゃっ」
「あ、悪い」
ベッドの中にいてもらった利智にぶつかってしまったようで、掛け布団が勢いよく捲れ上がった。今更だが、ベッド上の不自然な膨らみを草枷に指摘されなくて良かったと思う。
「つかれた?」
「うん。すっごい疲れた・・・」
「じゃあ、はなすのあとにする?」
「・・・うん?」
顔を上げ、利智が指さす方を見るために上半身も起こして捻ると、自室の扉は開けっ放しで、廊下の様子がよく見えた。自分の周囲には部屋の扉を閉めない人しかいないのではないか。
直樹の部屋の前では、真桜と胡桃が遠慮と好奇心が混ざり合った表情で寄り添いながら立っていた。
「あー・・・今話すよ。居間に行こう」
家に充満する重苦しい空気は
「お二人も居間にどうぞ。お茶でも飲みながら詳しく話をします」
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