3.空高く澄み渡り 上
第26話
暦上では夏真っ盛りだというのに、ここ最近は不安定な天気が続いている。一日中雨の日もあれば、晴れていたのに急な豪雨になる日もある。朝から青空が見えていた今日も例に漏れず、土砂降りの午後となった。
日中の暑さに負けじと背伸びをする雲に油断し、傘を持たずに外出した直樹と
「ただいまぁ!」
「すいませーん、真桜さんいますかー?」
真桜は今日ずっと家にいると言っていたはずだ。着物や髪から滴り落ちる水滴を拭き取るために手ぬぐいを持ってきて欲しいのだが、真桜はなかなか玄関に現れない。直樹と利智は顔を見合わせ廊下への被害がなるべく最小限になるよう、つま先歩きで玄関を上がった。
何やら居間が騒がしい。ペタペタと小さな足跡を残しながら利智が居間の扉を開けた。
「た、だ、い、ま!」
「りっちゃん、お帰りなさい」
「まだ動いちゃダメよ、くーちゃん」
「あ、すいません!」
居間では真桜が胡桃の足に包帯を巻いていた。
「胡桃さんも帰って来てたんですか」
直樹は居間には入らず、廊下から顔だけを覗かせる。そんな直樹の気遣いも知らずに利智は濡れたままの足で居間の絨毯を踏んでいく。
胡桃も突然の豪雨の中、帰ってきたようで靴の中まで水浸しになってしまったらしい。そのせいで足に鱗が浮き出ていたことに気づかず、靴下を脱ぐ時に一緒に剥がれてしまい、真桜はその手当をしていたため玄関に来れなかったということだった。
「帰って来た声はちゃんと聞こえてたわよ」
「じゃあ、廊下の後始末をお願いしてもいいですか?」
「え、嫌よ」
「即答ですね」
直樹はもう既に水が染みこみ、変色した床を一瞥する。利智を洗面所に連れて行きたいのだが、胡桃の側から離れる気配がない。
「・・・クルミちゃん、これいたい?」
「真桜さんが手当してくれたから、もう大丈夫だよ」
包帯に包まれた両足をそっと撫で、胡桃は利智を安心させるように笑う。
「ふーん・・・・・・」
笑顔を浮かべる胡桃の顔と包帯に包まれた足を交互に見た利智はかぱり、と大きく口を開ける。
「―― 利智」
直樹の声に利智はぱっと廊下側を見る。
「絨毯が傷むだろ。さっさとこっち来い」
「はぁい」
髪から落ちる水滴がなくなっても服はまだ濡れたままである。少し冷えてきたので風呂にも入りたい直樹は利智を連れ洗面所に向かおうとした時、「
「さっき、文ちゃんにお客さん来てたわよ」
「何時ごろですか?」
この雨の中、無駄足を踏ませてしまっただろうか。少し慌てた様子で直樹は玄関の方を見た。
「くーちゃんが帰ってくる前だったからぁ・・・晴れてる内に来て、『明日また来ます』ってすぐ帰ったわよ」
「そうですか。教えてくれてありがとうございます」
「いいえ~」
救急箱の中身を整えながら、真桜は洗面所に向かう二人に手を振って見送った。
「たべちゃ、ダメだった?」
「僕との約束、忘れたのか?」
「わすれてないけどぉ」
「僕が気に入っているものと気に入らないものは食うなって言ったよな?」
「・・・クルミちゃんのことはきにいってる?」
「君、普段から何見てんだ」
「ナオのことみてる」
「あっそ」
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