第25話

 利智と加賀がいがみ合っている隣で直樹はナシオとの挨拶と蹴り飛ばそうとしたことについての謝罪をしていた。

 どうやら鳥の頭部がくっついていた間の記憶は曖昧らしく、土木作業員として働いていた自分が急に夜道に倒れていたもんだから驚いたと身振り手振りで伝えてくれた。

「ナシオさん自身に怪我はないようだし、あの鳥も元凶の彼に処分させたし、今日はもう良いんじゃないかな?」

「そうっすね。夜明けまで大人しくしててくれると助かるっす」

「うん。次は事情があるなら話してくれると僕も助かるよ」

「うっ・・・すんません・・・・・・」


 加賀とナシオは祭りの後片付けがあるから、と露店があった方へ戻ってしまった。

「かえらないの?」

 立ち止まったままの直樹を不思議に思ったのか、利智が見上げてきた。

「いや、帰るよ」

 風が吹いて、汗ばんだ首元を撫でていく。繋いだ手はベタついているが二人は手を離すことはなく、暗闇へと歩き出した。


不自然に濡れた跡だけがその場に残っていた。



 地面を蹴って、塀に飛び移る。少しの会話が終わり、近くの屋根へと飛び移る。

 片手に釣り竿、もう片手にはか細く呻く鳥の頭。屋根伝いに移動する足音はどこまでも軽いものであった。


 湿気を帯びた穏やかな風が通りを吹き抜けた。今晩は絶好の釣り日和だと思っていたが、予想は外れ何も釣り上げることはなかった。自分は気が長い方だと自覚はあっても体はそうと限らない。同じ体勢で数時間を過ごしたせいか、すっかり固まってしまったようだ。

 気分転換も兼ねて、夜だというのに随分と明るい方へ移動する。どうやら今日は宵宮だったようだ。


 露店と提灯が作り出す賑わいから外れた所に人影を見つける。何やら危機的状況であったので、半ば反射のような形で釣り針を垂らすと、噂の人物が食いついた。

 この町にいつからか滞在する者。町の厄介ごとを解決してあるく変わり者。彼はいろいろと話題に挙がりやすい。その大半が誇張されたものではあるが。そして、友人に名を付け“所有物”とした男でもあった。

どんな者かと話しかけてみるも、実に無欲そうな男であった。異能持ちであるとも聞いていたが、それを使うそぶりもなかった。その傍らにいた子どものような何かは・・・よくわからないが、触らぬ神に祟りなしと言うので特に正体を尋ねるようなことはしなかった。


 詳細は省くが、夜人は直樹達に押しつけられた残骸を持って夜の中、屋根伝いに移動していた。


 やはり、気に入りそうにはないな。


 人当たりが良さそうではあったが、それだけであった。友人はアレの何が良くて名付けられる事を良しとしたのか不明なままであった。

 不快感や嫌悪感とも違う靄が腹の底で煮えてきた頃、夜人は普段「火の家」と言っている家の近くまで来た。宵宮と同等の煌めきを放つ、その家の隣の屋根に立つと持っていた鳥の頭を釣り針に刺した。刺した瞬間、何か汁が吹き出たが火の近くに居れば乾くだろう。


 扱いに困るもの、不都合なもの、その他様々なものが投げ込まれたであろう家は今夜もよく燃えている。

「・・・かわいそうに」

 それは誰に向けた言葉なのか。夜人は鳥の頭を燃え続ける家に投げ入れ、腰を下ろす。


 さてさて、夜明けまでに何が釣れるだろうか。


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