第22話

 止まることを知らない夜人の喋りに滑り込ませる相槌も適当になってきた頃、「ナオー」と利智に呼ばれる。その声はどこか疲弊したようでもあった。

「どうした?」

 利智はまだ鳥の頭を弄っていた。

「これ、ぜんぜんしなない・・・」

「それ?」

「うん」

「・・・近寄ってもいいか?」

「それはいいよー」


 夜人に一つ、断りを入れ利智に近づく。動かなくなったので、てっきり命絶えたものだと思っていたが、鳥の頭はまだ微かに歯切れの悪い叫び声を出し続けていた。すぐ側まで近づかなければわからないほど、か細いものであった。

「ほぉ、寄生虫だな。それは」

「虫ですか?」

 断りを入れたのでどこかへ立ち去ってしまったと思っていた夜人が口を挟んできた。どうやら後ろからついてきたようだ。

「まぁ厄介なものだが、わざわざ近づいて体内に取り込まない限り、勝手に死ぬ無害なものさ」

 ほらここ、と夜人が指さした先を見る。鳥の頭の付け根部分。頭部しかないのでそこから先に存在するものなど何もないのだが、暗闇に目が慣れてきたのか直樹は何か蠢く影を見た。

「・・・?」

 首を傾げる直樹を見て、夜人はその蠢く影の一部を引き抜く。それはミミズのようであった。

「可哀想に。いつも通り餌を食べただけなのに、こんなことになってしまって」

 夜人が摘まんでいるミミズのようなそれは、自身を食べた者を浸食し支配してしまうのだという。

「その虫は・・・その辺でよく見られるモノなんですか?」

「うん? もしかして初めて見るのかい」

「えぇ、そんな危険な虫がいるなんて初めて聞きました」

「ねぇ~これがずっとないてんのも、そのむしのせい?」

「そうだろうねぇ」

 ミミズのようなものは夜人の指の中で上下に激しく揺れる。おそらく抵抗しているのだろう。その動きは以前、酔った真桜が「定規をこうするとね~曲がるのよ~~~」と言っていたものに似ていた。あれは錯覚で定規が曲がっているように見えるだけなのだが。


「ナオぉ~ホントにこれたべちゃダメ?」

「話聞いてたか? 寄生したらどうするんだ」

 利智が食えば何事も『無かったことになる』。しかし万が一、消化より寄生する方が早ければ、と考えてしまう。

 未だにか細く鳴く鳥の頭に苛立ってきたのか、利智が竹串を繰り返し突き刺す。その度に何か液が飛んで服に付着しているような気がする。

「うーん。日が当たる所に置いておけば干涸らびて、すぐ死ぬかもしれないねぇ」

 太陽を知らない夜人が陽のことを言うのは意外だったが、ミミズのようなものだし可能性としては有りだろう。しかし、今は夜。朝が来るまで、この鳥の頭をこのまま放置するわけにもいかない。

 どうしたものか、と直樹が考えている横で突然、夜人が「ちょっと失礼」と鳥の頭を持ち上げた。当然、竹串は刺さったままである。

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