第20話

 街灯が等間隔で並んでいるとはいえ、夜は夜。人の目では、よく凝らして見ても限界があるが、確かに何かがそこにいるのは直樹にもわかる。利智も警戒しているのか二本の竹串を両手にそれぞれ持ち、暗闇の向こうを凝視している。

 暗闇から街灯の下へと姿を表したのは、頭部が鳥のそれとなっている、人のようなものであった。要は鳥の頭と人間の胴体がくっついた何かであった。体格、服装的に中年男性といったところだろうか。

 鳥頭は街灯の下で一旦、動きを止める。それは何とも奇妙な光景であった。


 鳥の視野について確かな知識を持ち合わせていないが、鳥頭は直樹達を認識したらしい。街灯の下でぎこちなく、その体を曲げる。軋む音すらしそうなほどゆっくりと脚も曲げ、そして、そのままこちらへ走り出してきた。


 それと同時に利智が駆け出す。

 利智は一定の距離まで駆け寄ると地面を蹴り、鳥頭に飛びつく。その勢いで鳥頭は体勢を崩し、利智ごと地面に仰向けに倒れてしまった。利智が手に握っていた竹串を鳥頭のどこかに突き刺したのか歯切れの悪い叫び声が直樹の鼓膜を震わせた。

 絶叫に合わせて人体のほうもぎこちなく抵抗するような動きをしていたが、次第に動きが小さくなり、ついには死体のように動かなくなってしまった。もしかしたら、元から死体だったのかもしれない。


「ナオー、これたべていい?」

「待て待て。僕に会いたがっていた人かもしれないだろ」

 突き刺したままの竹串から手を離した利智が振り向く。暗くてよくわからないが、不満そうな顔をしているのだろう。

「これとはなしするつもり? やめたほうがいいよ」

 会話するもりはないし、話が通じるとも思っていない。ただ、気味が悪いモノを利智に食わせたくなかった。

 加賀と利智の話から自分に会いたがっているのは人間か、人の姿を模した何かだろうと直樹は予測していたが、それが鳥の頭と人の体がくっついたものだとは思わなかった。流石に予想外すぎて対処に困る。


 鳥頭から利智が離れるのが見えた。歯切れの悪い叫び声はもう聞こえない。

 先ほど出した指示通り、利智は“食事”をしていない。しかし直樹の元に帰ってくることはなく、動かなくなった鳥頭をじっと眺めている。不思議に思った直樹は利智を呼び寄せることにした。手招きくらいは気づくだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る