第19話

 露店の列から外れた所に臨時で作られたゴミ捨て場がある。臨時のゴミ捨て場には大きな木箱が複数置かれており、祭りに来た人々はこの中に好き勝手にゴミを放り投げて帰って行く。

 分別を促す貼り紙もあるが、露店の列と違ってここは腕を伸ばした先の爪さえ見えないほど暗い道だ。街灯の下に貼られているわけでもないので、見る者は少ないだろう。

 町の自治会の善意で設置されたそこは既にゴミで溢れかえっており、異臭を放っていた。

「・・・チッ」

 あまりの臭いに思わず舌打ちが出る。

「がらわるーい」

「無駄足だった気がする・・・マジで本当に帰ろうかな」

「リーもつかれた~~~! かえろうよぉ!」

 ゴミ捨て場で一気に現実に戻された直樹は溜め息と共にぼやき、利智は通りに反響するほどの大声を出してごね始める。

 露店を巡っている時も、さりげなく道を外れた時も直樹達に近づいてくる者はいなかった。今もわざとらしく帰る主張をしたところで、不満が悪臭と溶け合うだけで終わった。

 このへんで潮時か、と考えた直樹は利智にほら、と手を出した。

 木箱の中に串を入れるには利智の身長では届かない。投げ入れてもいいが、積み重なっている袋に弾かれてしまう可能性が高いので、直樹が代わりに捨てようと手を伸ばすが利智はそれを拒絶した。

「捨てるから、それちょうだい」

「まだだめー」

「駄目って、」

 これは家に帰らないと手放さない事例かもしれない。そう思い、ゴミ捨て場から立ち去ろうとした二人からそう遠くない場所で靴底と地面が擦れる音がした。


 今日、宵宮に来たのは直樹に会いたがっている者が現れるかもしれないからだということを少し忘れていたようだ。例に漏れず自身も浮き足だっていたらしいことに直樹は、再び溜め息を吐く。

 それと同時に露店の列に背を向ける形で直樹は姿勢を正す。文字通り、意味通り、一寸先は闇。さて鬼が出るか蛇が出るか、或いは。


 黄昏時を過ぎれば神の時間、というのは遙か昔の話。今は神に限らず異形達の時間である。


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