2.紺碧の空に一片の雲もなく
第17話
「―― 夏祭り、ですか?」
「はい。その、来週開催されるやつなのですが」
行ってもいいでしょうか? と
「良いですけど・・・服はどうしますか?」
胡桃は年頃の女性にしては手持ちの服が少ない。本人が気にしていない、とよく言っている上に異性の服事情について、よく知らないので放置していた。しかし、さすがに夜間に制服のまま出歩かせるわけにはいかない。かといって普段、家の中で着ている服が友人と遊びに行く時に相応しいものであるというわけでもない。直樹自身、友人と遊びに出かけた経験が無いので、こういう時に相応しい格好が思いつかないという問題もあるが。
パチパチと油が跳ねる傍らで悩み始めた直樹に、胡桃は少し興奮気味に口を開く。
「大丈夫です! この間、
「そうでしたか」
いつの間にか女性陣の間で準備が進められていたようだった。流石、としか言いようがない。
「では、日が近くなったらまた教えてください。忘れているかもしれないので」
「わかりました!」
チラシを部屋に置きに行った胡桃と入れ違いで、真桜が台所に入ってきた。おそらく揚げ物の匂いに誘われて来たのだろう。余分な油を落とすために紙の上に置いた天ぷらに手を伸ばしたが、まだ熱かったようで指先が触れただけですぐ引っ込めてしまった。
「まだ熱いですよ?」
「わかってるって」
最後の一尾を鍋から取り出し、直樹は火を止めた。
「真桜さん、天ぷらは塩派でしたっけ」
「どっちでもいいわよ。つゆは濃い目でね」
「じゃあ、これ。お好みでお願いします」
と言い、彼女に手渡したのは大根の上半身。
「えっ、自分でやるの?」
「僕ら、これから外出の予定があるんですよ」
大皿に粗熱がとれた天ぷらを盛り付けていく。その量は、この家の住人全員が食べるには明らかに少なかった。
「ナオー! はやく!」
玄関がある方から活気のある声が響く。利智には靴を履いて待っているようにと言っていたのだが、待つのにも飽きてしまったようだ。先ほどからずっと直樹を呼び続けている。
「そうだったの。気をつけてね」
「はい。あぁ、油の処理は帰ってきてからやっておくので、そのままにしておいてください」
胡桃が台所に戻ってくるのと入れ違いで、直樹は玄関へと向かった。
外に出ると、まだ夕日が顔を出しており舗装されていない通りを照らしていた。昼間とは違った虫が鳴き始める時間帯、生温い湿った空気が皮膚に纏わり付く。
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