第14.5話


 夜道を歩く。歓楽街を抜け、街灯が規則正しく灯されている道を歩く。頬は少し紅潮しているものの、足取りはしっかりとしており、きちんと道の端を歩いている。

 酒はいい。体温とともに気分も高揚するのがいい。火照った頭に冷たい夜風がぶつかるのがいい。馴染みの店を後にする寂しさに浸るのもいい。

 冬はとうに過ぎ去ったが、「はぁー」と息を吐いてみる。呼気は白くならず、夜に霧散した。

肌に当たるは程よく冷たい夜風。未だ、燃え盛る炎の中に生きる我が身を正気に戻してくれる、ありがたい存在だ。ふと、視界の端に何かを捉えた。明るい色をした毛玉、否、一匹の猫であった。野良のわりに毛並みは良い。通い妻ならぬ通い猫だろうか。近づいても逃げないどころか頭部を擦りつけてくるあたりから、かなり人慣れした猫であった。

  んーぅ

しばらく撫で続けていると猫が声を上げた。残念ながら、何と伝えてきたのかはわからない。同居人ならばわかるだろうか。子どものような何かと行動を共にする変わった男ならば。


「・・・また、巡り会ってくれる?」

 思わずこぼれたのは、あまりにも女々しい声。茶トラの猫は、その言葉に応えるように撫でている手を舐め、こちらを見る。その瞳はいつか最期に見た琥珀であった。



 棚田真桜たなだまおは死に損ないである。生き続ける限り、燃え続ける。例えそれが彼女自身、望んだ結果ではないとしても。

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