第12.5話

とある回想 二


 だから、こんなことになってしまったのだろう。

口の中はちのあじ。まだ動くのね、と自身の牙をより一層、深く食い込ませる。鷲掴みにされていた手が、ずるりと滑り落ちた。


 燃える。燃える。

 最後に見たのは燃える家。否、自分を覗き込む綺麗な琥珀色の瞳。それに惹かれた日々が思い出される。これが人間が口にする走馬燈というものだろうか。記憶だけではなく、彼の幻覚まで見るなんて、自分の都合の良さに笑ってしまう。声を出して笑ったことなんてないから目を細めるだけになってしまうが。


 ・・・あぁ、かつて見惚れた色に看取られるなら充分だ。そう思いつつ視界が狭まっていく。ゆるゆると夢うつつの縁を彷徨う中で見た。琥珀色の背後に手が迫り、彼の頭部が鷲掴みにされたところを。


そこで、最期となった。


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