第11話

 燃え続ける家。ごく普通の二階建ての家であるが、常に燃えている。しかし、その火は近隣に燃え移ることなく一軒の家だけが火に包まれていた。

 予想できていたことだが、すごく暑い。目が乾き、皮膚が干上がりそうなほどだと直樹は思った。

「こんなとこに何の用だ?」

「用というか、ね」

 立ち止まった銀次はこちらを向くことなく話す。その声色は平淡なものであった。利智を抱え直し、直樹は話を続ける。

「この辺りを縄張りにしている猫が消えたので探して欲しいと頼まれまして」

「そーかよ」

 饒舌に話をしていた先ほどとは打って変わり、素っ気ない態度と返事であった。

「貴方は何かご存じありませんか?」

「別に。知ってどーすんだよ」

「依頼主も探しているようなんですけど、何故かこの地区に近寄れないみたいでして。真っ直ぐに進んでいるはずなのに、同じ場所に戻ってきてしまうそうなんです」

「あ、そう」

 短くも律儀に返事をしてくれる銀次はそこから立ち去るわけでもなく、直樹達と共に燃える家を眺め続けていた。時々、屋内で暴れている火の中から魚が飛び出した。一度に数十匹と空に飛び立つ魚を見て、因果関係は不明だが、ここが出所だったかと直樹は新たな発見をした。


 人通りは変わらず、生活音すらしない通りで燃え続ける家を三人で眺める。不意に銀次が口を開いた。

「なぁ、なんで、魚が飛んでんのかわかるか?」

 意図が読めないが直樹は「さぁ?」とだけ返しておく。


「・・・探してんだよ」


 そう言い、こちらに顔を向けた銀次の顔はほとんどが焦げており、猫のように瞳孔が丸く膨らんだ双眸が炎の灯りを反射した。黒くなった皮膚をひくつかせながら笑みを浮かべ、近づいてくる銀次の片目に利智が枝を突き刺した。そういえば抱き上げたままであった。

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