第6話

 西洋文化を取り入れつつも時代に追いつけていないこの町は、景観の統一感が微妙に欠けている他、移り変わる社会とは少し『ズレている』。なかなか出来ないことだろうが、道端に寝そべり人混みの足下を眺めて見ると、町の往来を歩く群衆の中に何かが紛れ込んでいるのが、わかる人にはわかるだろう。それは元々この土地に住み着いていたものから流れに流され、この町に辿り着き、そのまま暮らしているものなど、多種多様である。彼らは特に世間に怯え、隠れ住んでいるわけでもなく人間に紛れて各々それなりな生活を謳歌しているのだ。

 路地に面した薄汚れた外壁の洋館に住む者達も、町同様に少々『ズレている』。この洋館の管理人である異能持ちの男をはじめとする愉快な住人達は、今日の朝を迎えようとしていた。


 朝日が差し込む浴室で直樹は湯船で舟を漕いでいた。昨晩、風呂に入り損ねたので朝に済ませようと思い、いつもより早く起きたせいか、眠い。初めは熱さで眼が覚めたものだが、湯の温度に体が慣れてしまうとその心地よさに再び眠気が近づいてきてしまう。遠ざかる意識の端で、風呂で寝るのは危険だとか何とか聞いた気がする。死因が風呂でのうたた寝というのは普通に嫌だな。


「なんで! さきに! おきたの!」

 眠気に打ち克った直樹が浴室を出たら利智がいた。どうやら直樹が何も言わず部屋からいなくなっていたことに怒っているようであった。利智が起きる前に朝風呂に入るのは今日が初めてではないのだが、何故か怒っている。

「風呂に入るため早起きした」

「みればわかる!」

とりあえず事後報告してみたが利智はむくれたままであった。直樹は今度、置き手紙でもしておこうと考えつつ利智を連れて食堂に向かった。

 食卓に置かれていたのはお粥であった。台所から胡桃が顔を出し、「おはようございます」と言い利智に二人分の箸を手渡していた。

「…誰か病人でもいましたか?」

「いやっ、その違うんで」

「リーのね、りくえすと」

 直樹の質問に慌てる胡桃の傍で、利智がむふーっと鼻息が聞こえてきそうな程のドヤ顔をしていた。聞くところによると、昨晩、直樹たちが晩酌をしていると察知し胡桃にリクエストしたらしい。自分の願望が叶ったことで、さっきまでの不機嫌は何処へやら。鼻歌交じりに箸を置いていく。その現金な姿を横目に直樹はまだ台所にいる胡桃に声をかけた。

「胡桃さんは、もう食べたんですか?」

「はい」

「あぁ、お皿洗っておくので学校行ってください」

「えっ、あ、すいません!」

 外からは学生や会社員が慌しく移動している声が聞こえている。それに負けじと胡桃も慌しく玄関へと向かうので少し心配になり、見送ることにした。片足立ちで靴を履く危なっかしさに若干ハラハラしたが、転ぶことはなかった。ドアに手を掛け、胡桃が振り返る。

「行ってきます!」

「はい、怪我に気をつけて」

「クルミちゃんいってらっしゃーい」

 

 玄関で転ぶことはなかったが、直後、門にぶつかったらしく派手な衝突音が路地に響いた。

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