第4話
本を用い、文章を身に纏うことで物語の登場人物に外見を変えることが出来る。普通の人間には出来ない芸当ではあるが、便利なものではない。変装という形でしか活用されない上に変えられるのは外見のみなので、声を発すればすぐ男であるとわかってしまう。自身の異能について、直樹は使い勝手が良いとは思っていない。だからといって嫌ってもいなかった。これは使いどころを間違えなければそこそこ役に立つ能力なのだ。そう、例えば今のように。
「・・・こんなもんですかね」
直樹は今、
「黒の面積ありすぎじゃない?」
「そんなの原作の方に言ってくださいよ」
真桜は仕事で小説の表紙を描くことになったらしく、具体的なイメージが欲しいということで、直樹は小説の登場人物に外見を変えてはスケッチされるということを繰り返していた。インバネスコートなんて初めて着たし、詰め襟は息苦しい。首のあたりをもぞもぞ弄っていたら「動かない!」と真桜に怒られてしまった。その後も学生服のまま座ったりコートを翻してみたりしている中でふと浮かんだ疑問を聞いてみた。
「というか、この本って発売から結構な時間が経っていますよね。今更、表紙描く必要あるんですか?」
「なんか大人の事情?で、期間限定で漫画家とか絵師とかが描いた表紙に差し替えられるんだって」
「大人の事情ですか」
「そ、大人の事情。もう元に戻っても良いわよ」
「便利な言葉ですね。大人の事情って」と言いながら直樹は栞が挟まっている本を開き、栞を抜き取ってからぱたん、と閉じた。すると学生服もコートも砂粒ほどの粒子に分解され、空気中に消えていった。
真桜に本を返し、彼女の部屋を後にする。そのまま風呂に行こうかと思ったが、利智と胡桃が使っていることを思い出し、直樹は台所に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます