第3話

「随分と時間かかったようね」

 利智りさとの着替えを持って部屋を出ると声をかけられた。目の下に薄ら隈を浮かべている女が廊下に立っていた。


この洋館には直樹と利智の他にも住人が居る。いわゆる共有住宅シェアハウスというやつだ。

真桜まおさん。起きてたんですか」

「起きてるも何も仕事してたのよ」

 彼女は漫画家である。作品にきちんと目を通したことはないが、そこそこ売れていると自分で言っている。また、漫画の他にも評論や随想を書くこともあるらしく、締め切りに追われている姿をよく見る。「先に行ってるわね」と真桜を見送り、直樹は洗面所に戻った。

「ん!」

「はいはい。綺麗になったな」

赤黒く変色した汚れがなくなり、水気も拭き取った手を見せてきた利智に着替えを渡して食堂に向かう。廊下は味噌の香りがした。


「ただいま!」

「さっきも言っただろ、それ」

 椅子に座り手を合わせ卓上に並べられた食事に向かって会釈する。鯖の味噌煮から湯気が立ち上っている。真桜は先に食べ進めていた。

「おかえりなさい」と言いながら少女が台所から出てきた。彼女もここの住人である。こうして食事を用意してくれるありがたい存在だ。

「味噌煮に味噌汁って組み合わせ変、ですよね・・・すいません・・・」

「何言ってるのよ、豆腐に醤油かける国なんだから。それくらい気にしないの」

「クルミちゃんのごはんおいしいよ!」

「うぅ・・・ありがとうございます・・・!」

 お礼を言いながら席に着く胡桃くるみは礼儀正しい少女である。真面目さ故か気にしすぎる所もあるが、真桜や利智が励ますことで(一般的に見て励ましになっているのかは別として)バランスのとれた三人だと思いながら直樹は油揚げ入りの味噌汁を啜った。

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