第2話

 鉄筋コンクリート造りの雑居ビルや木造の商店が入り乱れる道は、ロクに舗装されていないせいで土埃が靴を汚していく。淡く光る街灯が町の道しるべとなる時間帯、男と子どもは手を繋いで人の波に乗っていた。他愛のない会話を続けながら人の波から外れ、横断歩道を渡って角をいくつか曲がり人気の少ない路地を進めば洋館が見えてくる。この辺りでは特に珍しくはない、薄汚れた外壁の洋館である。その昔、海を越えてやって来た宣教師とその家族が暮らしていたとか。柵で作られた門を開けると子どもは男の手をぱっと解き、洋館にまっすぐ駆けていった。夕暮れ時は夕飯時。各家庭がそれぞれ晩御飯の準備に勤しんでいるのだろう。空っぽの胃を刺激する香りが狭い道路に充満していた。門を施錠している男の背後で「ただいまー!」と子どもが叫ぶ声が聞こえた。


利智りさと、手洗え」

そのまま台所に突撃しそうであった子どもの首根っこを掴んだ男、久文直樹くぶみなおきは子どもを抱え洗面所に向かう。利智りさとと呼ばれた子どもは直樹の拘束を振りほどこうともがいていたが、空腹で力が思うように出ず、あっという間に洗面台の前まで連行されてしまった。

「ここがしょけいだいか・・・」

「何言ってんだ。服も汚れてんだから着替えんぞ」

「ナオがてあらったらあらう」

「僕は今から君の着替えを取りに行くんだけど」

「むじひ! ばか!」

「何とでも言え」

悪口雑言の数々を並べる利智に着せたポンチョや血まみれの服を脱がせ肌着姿にする。他の洗濯物と一緒には出来ないので、洗濯かごの横に置いておいた。その間に手に付いてしまった汚れを水で軽く濯いだ直樹は水の滴る手を利智に見せ、「僕が手を洗ったら、洗うんだろ?」と口角を上げた。

「う~~~」

「じゃ、服持ってくるから。ちゃんと石鹸つけて血落としとけよ」

うーうーと唸りながらも手を洗い出した利智を見てから直樹は部屋へと向かった。

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