5:お城探検隊活動開始

「たんけーん、たんけーん!」


スキップしながらマリーが大きな声で歌いだしました。


「こら、マリー。もうあなたここに来て何年になるのよ……。」


「いつ見てもこのお城は楽しいんだって! 歳を重ねるごとに見る視点が変わっていって、面白いんだよ?」


今までかなり16とは思えないほど幼い話し方、行動だと思っていたが、こういう所は多感な年齢らしいな、なんて思いました。


「そう言えば、マリーとエレオノールさんはいつからここに居るんですか?」


「あたしは6歳の時からだよ! もう10年にもなるんだね〜!」


「6歳!? 小さい頃から強かったのかな?」


「いやいや、そんなヘッドハンティング的なものじゃなくって! ふつーに、身寄りがなくなったから盗賊生活をしようとしていたら、ロルフに抑えられてそのまま。」


かなり波乱万丈な人生を経験しているようで、かける言葉が見つかりませんでした。


「私は16の時だから、6年目になるのか。これでも、マリーの後輩だからな……。」


「みなさん結構若い時に来てらっしゃるのですね。エレオノールさんはどうしてここに?」


「結構私のケースは珍しいんだが、私の家が元々このような職の専門でな。そこで隠密募集をこの家がかけていて、それに推薦されて引き抜かれた感じだ。


まあ、ここに入れてすごく助かってるよ。今もあそこにいたら何に巻き込まれてるか、わからんしな。」


「な、なんかみなさん壮絶ですね……。」


こうも掘り下げてしまっては話を変えることも容易ではありません。


2人はむしろその話にシフトしようとしていました。


話を振ったのは私ですが、返答に困ってしまうのでどうにかして逸らさなくてはなりません。


「フローレンス、着いたよ。ここが共有スペース。あまり使うことはないんだがな……。」


まるで某魔法学園の寮の談話室のような、テーマが統一された部屋にやってきました。


温かみのある木製のテーブル、チェアに、冬場には暖かく燃え上がるであろう暖炉を見て、ここでゲームをしたいな、なんて思いました。


もちろん、みなさんが楽しめるようなトランプとかですけれど。


「ここはよく作戦会議をしてるのを見るなー!」


「作戦会議?」


マリーがそう言いました。


「この国はあまり戦争にならないから、外交するときの作戦会議だったりだよ! まあ、やむを得ない戦争、なんてなったらできる限り被害を最小に抑えるための会議とか。」


共有スペース、とエレオノールさんは言ってましたが、かなり重要なスペースで、共有だけじゃ片付かないでしょうと思いながらお話を聞いていました。


「次はここだ! 姉ちゃんの部屋! 」


自然にマリーは鍵を開け、どーぞ。と頭を下げました。


「いやそこ私の部屋ですからね? まあ、特に見るものもないですけれど、どうぞ?」


「それでは、失礼します!」


エレオノールの部屋は、シャワールーム、キッチン、リビング、寝室と、リュドミールの部屋と比べたら少し簡素な作りでした。


……部屋は人を表すのでしょうか。


入ってすぐ、カーペットは薄いピンクの花が綺麗なもので、大体の家具は白い木で作られたものに統一されていました。


タンスやベッドには猫やハムスターなどの人形が、指人形ほどの大きさから、抱き枕ほどの大きさのものまで綺麗に置かれていました。


「この子と一緒にいっつも寝てるんだよ!」


「マリーはその抱き枕ぐらいのサイズのクマが好きなのね!」


「ん、違うよ? この中ならあたしは猫が好きだなぁ。」


「寝てるってさっき言ってなかった?」


「そ、それは私の話で……。」


エレオノールさんは、思わぬ形で夜のパートナー(?)を紹介されてしまい、恥ずかしさからか、顔が真っ赤になっていました。


「あ、エレオノールさんでしたか! 良いですね……。こんな大きなお人形と一緒に寝るのが夢なんですよ、私!」


「それなら今夜、フローレンスに貸そうか?」


「可愛いし、ありがたいのですが、それはエレオノールさんのですから大丈夫です! 仕事をしたら貰えるご給金でいつか自分で買いますから!」


クマを可愛い、と言われたことがエレオノールさんは嬉しかったのか、クマの名前や、いつ出会ったかを事細かに教えてくれました。


さすがに、25分もの演説は割愛、です。


「はい私の部屋はおしまい。 そういうことした責任として、お隣のマリーの部屋に入ってみようか?」


「別に、見られて困るとかそういうものないからー!」


「年頃の女子なら何かあるでしょう!」


なんて言いながら、期待してドアを開きました。


言葉が何も出ませんでした。可愛いも、シンプルも。


「ね。何もないでしょ?」


少し寂しそうな笑顔でマリーはそう私に言いました。


「年頃の女の子なんだし、なんか花とか飾ればいいのに。っていうかこれ、移った時のままじゃないのか?」


エレオノールさんは、心配そうにマリーに聞きました。


「だって特に置くものないんだもん!」


「じゃあさ、マリーもショッピング行こうよ?」


「え、いいの?」


目を丸くし、マリーは私の目をじっと見つめました。


さっきまで何も無い、と言われた事に少し落ち込んでいたのか、自分を少し嫌いになったのか、私に理由はわからないけれど、瞳が少し曇ったように見えていました。


「もちろんだよ? だってさっき行こうって言ったじゃない。」


「ほんとのほんとのほんと?」


「ほんとのほんとだって!」


そういうと、マリーは瞳に涙を浮かべて、やった! と、小さくガッツポーズをしました。


この純粋なマリーを見ていると、やはり部屋に何も無いのが寂しく見えます。好きなものを知れれば良いのですが……。


「じゃああたしの部屋もういいよね! 他の部屋行こうよ! 食堂行こうよ!」


「うん、その考えは良いな。もうすぐ夕飯時なので、もしかしたら味見できるかもしれないな!」


「はっ、味見出来るのか! それは早く行かないとだ!」


エレオノールさんは気づいていないのでしょうか、口元にきらりと輝くものが垂れていることに……。


「王宮の食堂……。気になります! 早く行きましょう!」


16歳、18歳、22歳のうら若き乙女3人は食堂に向かって走り出しました。


言うまでもなく、18歳、完敗でした。


「フローレンス、体力無さすぎない?」


マリーからの直球の言葉が胸に突き刺さります。


「運動なんて、勉強していたら縁がないんだもの! 仕方ないの!」


「それにしても、さっきはものすごく遅かったぞ?」


エレオノールさんからのごもっともなお言葉も突き刺さります。


フローレンスは心に150のダメージを負いました。


「……少し運動しようかな。」


「それはいい考えだ! よし、あとで稽古をつけてあげよう!」


「あたし、フローレンスと組手やりたい! 早く王城の地図覚えて外行こうよ!」


「そ、それは初回からキツすぎるかな……。お手柔らかにお願いします。」


「でもまあ、腹が減っては戦が出来ぬ! 食堂についたし、味見させてもらおーう!」


「やったぁ!」


この数十分でエレオノールさんの印象が随分と変わりました。


美人なのは美人なんですが、中身は小さな可愛い少女みたいです。


もうひとつ言うと、マリーは言動に似合わず、案外現実主義で、暗い一面もあるということも分かりました。


出来ることなら、抱えている重荷を軽くしてあげたいのですが、さすがにまだ早いでしょう。


考えすぎた、と顔を上げると、マリーに口を開けられ、エレオノールさんにスプーンを入れられました。


「おいしい。」


「だよね! 今日はこの鶏がメインらしいよ!」


「東国の伝統料理みたいですよ。 早く夕食食べたいですね……。」


二人とも興奮してさっきより話すスピードが早くなっていました。


でも無理はありません。


この料理、初めて食べましたがものすごーく、おいしいのです。


東国には行ったことも、見たことも、料理を食べたこともないので未知の世界なのですが、きっとこの料理から察するに、とても良い所なのでしょう。


「この料理、なんというお名前なんですか?」


「これは“油淋鶏”、私たちも今日初めて作ったのですが、お口にあって非常に光栄です。これなら王子にお教え出来ますね!」


シェフが答えてくれました。でも、王子?


「王子に、ですか?」


「はい。王子は週一で、ここの料理長になるのですよ? 元々料理が好きで、とても作るのがお上手なので、美味しい! と言って食べていたら、それから週に一回は必ず作ってくださるようになりまして。」


「褒めたらとことん尽くしてくれるタイプなんですね、王子。」


リュドミールが料理なんて、意外です。


全部使用人に任せっきり! なんてせず、自分でやることはやっているし、こんな活動もするなんて、やはり優しい人なんだな、なんて思いました。

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城下町に出てきた村医者が次期国王に見初められて宮廷医師になってしまった話 あおりんご @aoiapple

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