4:お城探検隊結成
「ふー、やっと着いたね!」
荷物は使用人の方々に運んでもらい、疲れる訳では無いと思うけれど、城の中心から離れた居住スペースに移るのは、想像以上にかなり大変でした。
「お疲れ。とりあえず足休めて、中回る準備しとけ。俺はお茶とか準備するからさ。」
「ごめん、王子にそんなことさせるなんて。」
「いーや、俺がしたいだけだし。フローレンスの思ってるほど不器用でガキみたいな奴じゃねーからな? 母さんよりも料理も紅茶入れるのも上手いんだからな?」
「え、以外……。お茶の分量とか間違えそうなのに……。」
「それほどまでに幼く見えるか? まあいい、落ち着いとけ。出来たらそのテーブルに持ってくから。」
王子様にお茶を入れてもらうなんて贅沢な……。
言われた通り、少し荷物の整理をして、指をさしていた席に座って、持ち込んできた本を読んでいた。もちろん医学の。
「砂糖とミルクは自分で入れろよ?……って、その本医学のじゃねーか。見るだけで吐きそうになるな。」
「吐かないでください。もっと勉強しないと宮廷医師名乗れませんからね。」
淡白に答えて、作ってくれたコーヒーにミルクを1杯、砂糖を4つ加えました。
「砂糖入れすぎじゃないのか? まあ、人の趣味どうこう言えないが。」
リュドミールは私の正面に座って、ミルクをコーヒーの3/5、砂糖はなしでコーヒーを作り、フーフーと冷ましながら両手でカップを支えている。
「それにしても、すごい部屋だね……。部屋というか、家だよね……。」
いま私たちがいるのがリビング、それだけでも宿の一番高い部屋くらいの広さです。
部屋、と王妃様に言われてきたものの、シャワールーム、トイレ、キッチン、個室が2.3室物置までセットなので、この中だけでも余裕で生活ができる。
今まで私がいたミラでは、村長の家に住まわせてもらっていて、村の中でもトップのお金持ちだったはずだけど、やはり王族にはかないません。
「まあ、これでも王族なんでな。これくらいないと示しがつかないだろう。ほら、菓子も用意したから食べろ。どうせ食べてないんだろう?」
「あ、よくわかったね……。晩御飯までは大丈夫だと思ってたんだけど、やっぱ王様、王妃様の御前でおなかの音鳴らすわけにはいかない、って、思ってたらおなかすいちゃって。」
いただきます、といってリュドミールが出してくれたクッキーを食べました。
王族だから高級菓子かと思ったら、それほどでもなく、むしろ食べたことのある味でした。
「これは俺がさっき買ってきたクッキーでな。いつもの菓子じゃ飽きるから、こっそり抜け出していつも買い貯めているんだ。」
「通りで食べたことのある味なわけね。これ、村にも入ってきたことがあるお菓子だわ!」
コンコン
ドアのノック音がして、はぁとため息をつきながら王子はドアのほうへ向かっていきました。
ばたんとドアの開く音がして、顔をあげると4人の美男美女がいました。
「どうしても会いに行きたいって、うるさかったから入れてしまったが……。大丈夫か? 人見知り、とか。」
「大丈夫だよリュドミール。それで、この方たちは?」
「俺の側近だ。」
アゼリア家は美男美女しかいないのでしょうか。よく見ると家臣もかなりの美青年だったような……。
「ねえ! あたしから自己紹介する! はじめまして! あたしは、ローゼマリー・ラハナー。16歳の王子ボディーガード役だよ! 好きなことは料理と裁縫! 嫌いなのはトマト! フローレンスさん、よろしくね!」
オレンジ色のショートカットヘアーで、黄色い瞳の女の子がそういいました。
16歳、年下で妹みたいなかわいさを持った少女がリュドミールのボディーガードなんて……。
きっとさぞかしお強いのでしょう。私もそこそこには運動に自信がありますけど、勝てっこなさそうですね。
活発な印象を感じさせる目がとてもまっすぐで、何かはわからないけれど、強い信念を感じました。
「よろしくね、ローゼマリー!」
「名前、少し長いからマリーでいいよ!」
「こら、年上にそんな軽く話しちゃダメだろ?」
「ええー!? いいよね、フローレンス!」
「もちろんよ! 名前呼びも嬉しいわ!」
「すみません、うちの子が……。」
「ロルフは堅いんだって! そんなのだから彼女できないのよ!」
「硬派、と呼んでください。それ以上言うと鍛錬増やしますよ。」
「さいっあくだ。すぐ鍛錬を引き合いに出すなんて。」
「ほんとすみませんうちの小娘が……。申し遅れました、ロルフ・ボルトと申します。えー、26歳、王子のボディーガード、そしてこのローゼマリーの指導役をしております。これからよろしくお願いします。」
「はい、ロルフさん! こちらこそよろしくお願いします!」
マリーとテンポよく漫才のようなお話をしていたロルフさん。
銀髪で、邪魔にならないようにとオールバックをしている姿は少し色気も感じさせます。
また、わかりづらいけれども、右目は濃い青、左目はそれより薄い青になっていました。
初めてオッドアイを間近で見ましたが、同系色でも美しいので見惚れてしまいました。
「初めまして、ロルフに見惚れているところ申し訳ないが、私も貴女と仲良くなりたいな……。すまない、どうもこういうことは慣れていなくてだな。私はエレオノール・エトワール。22歳、あまり大きな声では言えないが、隠密をしている。基本はボディーガードということで通してくれ。好きなものは……そうだな、小動物と可愛い人形なんか好きだな。服も本当は可愛いものを着てみたいものだが、どうもこの姿じゃあまり似合わなくてな。」
「そんなことないと思いますよ? お時間あれば一緒に洋服のショッピング、行きましょうよ! よろしくおねがいします、エレオノールさん!」
エレオノールさんは物凄くかっこいい。
濃い青のロングヘアーをおろしていて、歩いたり動作をする時になびく髪が今まで見てきた女の人の中で一番色っぽいのです。
スラっと長い手足に、強い大人の女性、みたいな雰囲気が出ていて確かにかわいい服は着づらいのかもしれないかもしれません。
凝視するたびに美しいところを見つけてしまって、ますますショッピングに出かけたくなりました。
「まぁ、職的に着づらいよな。仕方ない。オフの日にでも二人で行って来れば?」
「え、いいのか? オフなんてお前がつらいだけじゃ、」
「たまには息抜きしろよ。俺をなめんなって。」
「ふふ、ありがとう。あ、こいつは、」
「いいよ、俺が自分で話すって。俺はカストル・ジャンメール。髪色は黒だが、東国出身じゃないぞ。染めているだけだ。役職はエレオノールと同じ隠密だ。歳を言わなくちゃいけないなら、それもエレオノールと同じだ。もう1つ言うなら,王子の付き人という仕事の同期はエレオノールだ。」
「そんなに私の名前を連呼しないでくれ。恥ずかしいんだが。」
「そのつもりで言ってんだって……。ま、とりあえずよろしくな、フローレンスさん。」
「はい! 仲良しですね、エレオノールさんとカストルさん!」
そう私が言うと、私のほうに近づいて、ほかの人に聞こえない小さな声で
「今の通り、あいつ鈍感すぎるんだよ。どうにかして振りむかせてーんだ。たまに相談に乗ってくれるか? ほかのやつらには内緒でな。」
今までの顔つきとは一転変わって優しそうな目でこう言いました。
恋愛相談、受けたことはないですし、そもそも恋愛なんて本の中でしかしたことがなかったので、実際の話が聞けるなんて楽しみで仕方ありません。
「もちろん! できることならなんでもしますよ! 惚れ薬なんかも勉強しますね!」
「ははっ、そういうのはいいよ。でも、それは頼もしいや。ありがとう。頼んだぞ。」
少し当たりが強そうな口調や容姿をしていますが、中身は純粋なカッコいい人のようです。
染めたという黒髪は、彼のピンク色の目が良く映えています。
少し色が落ちてきているのか、白い髪がちょこちょこみえる。元が白髪ならきっと女装が映えるくらい可愛いんだろうな、と少し思いました。
「……と、こんなところか? 俺の側近はこんなもんだ。他にもいるが常にいるのはこの4人だな。少し個性は強いが、どいつも俺にはもったいないくらい手練れぞろいだ。何かあったら、お前もこいつらに頼れよ?」
リュドミールはそう言って、4人の後ろに立って肩をまとめてぎゅっと抱きました。
今日出会ったばかりの私なんかじゃ、一歩たりとも入れなさそうな絆の強さに、すこし胸が痛みました。
その雰囲気を察したのか、リュドミールは抱いていた肩をから手を離した途端、リュドミールたちは私のほうに向かってきて、
「フローレンス、そんなに疎外感を感じないでよ! フローレンスも今日から”仲間”なの! ほら、よろしくのぎゅー!」
マリーが勢いよく私に抱きついてきました。それを合図として、エレオノール、ロルフ、カストルも一人ずつ抱きしめてくれました。
リュドミールは恥ずかしがって、俺はやらない! と駄々をこねていました。
少し寂しいな、と思い彼のほうを見ると、
「っ……! し、仕方ないな……。ほら。」
自分からするのはやはりできないようで、ぶっきらぼうに両手を広げてきました。
「ふふ、まだまだお子様ですね!」
私はリュドミールの方へ赴き、広げられていた腕の中にすっぽりと収まりました。
「うるさいな、そーゆーわけじゃねーんだって。」
ぼそぼそと呟いて私をそっと自分から離した。
強がっているところも彼は物凄くかわいい。
「さて、これで王子親衛隊5人目だな。それでは……。」
「ロルフ! 今日の鍛錬夜にして、いまからフローレンスとお城案内してもいいかな?」
「仕方ないですね。とりあえず私とカストルと王子は大人しく待っているとしましょうか。」
「了解。エレオノール、言っておくが俺の部屋には一歩も入らせんなよ?」
「どうでしょうねー。報酬次第によります。」
「……後で考えておいてやるよ。」
「マリー、あんまりはしゃいで皆さんを困らせてはいけませんからね?」
「わーかーっーてーるーよー! 早くいこ、姉ちゃん、フローレンス!」
「はいはい行きますよ。それでは行ってきますね。」
「おう、おもりを頼んだ、エレオノール。」
「了解です。主。」
日常なのでしょうか、みなさん保護者に見えてきます。
少しぼーっとしているとリュドミールに背中をポンと叩かれ、わ、と声が出てしまいました。
「ふっ、可愛いな。とりあえず行って来いよ。そのまま街に出てもいいし、城の中を見てきてもいい。そうだな、18:00にはこの部屋に戻ってくるようにな。何かあったら2人を使えよ?」
「うん。いってきます、リュドミール!」
「行ってらっしゃい、フローレンス」
優しいリュドミールだからこんなにいい人がついてきてくれるんだろうな、と思いながら、部屋を後にしました。
「結成! お城探検隊! だね!」
はしゃぐマリーを落ち着かせながら廊下を歩きました。
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