3:宮廷医師爆誕
「お試し期間、ですか。」
「そう、これでやってみて、もし宮廷医師が合わないようなら、この話はなしっていうのもいいけど……。」
「いえ、せっかくご紹介いただいたので、ありったけの力を出し切ります。喜んで受けさせていただきます!」
多少の迷いはありますけれど、せっかくの紹介を断るなんて私にはできませんし。
それに、リュドミールもいることですし、何とかなるでしょうから。
「じゃあ、お試し期間もなしで決まりね! いいでしょ、アイザック?」
「君がそういう時、大抵私に拒否権はないのだろう? 好きにしなさい。」
やれやれと王様は王妃様に優しい笑みを浮かべてそう言いました。
「改めまして、アゼリア家にようこそ。フローレンス・スタンリー。私はゼリア家正統当主、ヴァイオレット・アゼリア。彼女に宮廷医師の職を与えます。」
周りにいた家臣たちからわあっと声が上がりました。
「やっとけがの治療に専念できるな!」
「これでいつ熱が出たりなんかしても大丈夫だな!」
相当医師がいない期間は長かったようで、骨折などをしている家臣などの治療もままならなかったようです。
「さて、堅苦しい形式のお話はおしまいね、フローレンス。」
「なんでしょう、王妃様。」
「まず王妃様と呼ぶのをやめましょうか?」
「そ、それでは締まりがないというか……。逆になんとお呼びしたらよいでしょう?」
「敬語もお仕事の時なんかはいいけれど、普段はなしね? 何と呼べばいいのかって、決まってるじゃない。”お母様”でしょう?」
「え、いや、王妃様はリュドミールのお母様であって私のお母様では……。」
「それはそれよ。あなたにもお母様はいらっしゃるのでしょうけれど、ここで働くならお母様と呼んでいただきたいわ!」
想像以上に王妃様は強引で、私の手をぎゅっと握ってかわいらしくぶんぶんと振っていました。
「おい母さん、フローレンスが困ってるだろ?いくら娘がほしかったからと言ってだな……。」
「ありがとリュドミール。でもいいのよ。」
「え、それって。」
少しびっくりしたご様子で、目を丸くした王妃様が、しゃがみこんで私の手を振っていたのをやめ、私の顔を見つめました。
「これからよろしくお願いします、お母様!」
途端に王妃様の瞳がキラキラときらめいて、やった! と、立ち上がってその場でくるくると回り始めました。そのご様子は小さな子供がおもちゃを買ってもらったかのように、あどけなく、可愛いお姿でした。
「おい、いいのか? 母さんこんなのだからすぐ暴走するぞ?」
「え、全然嬉しいですよ?むしろお母様、なんて呼んだことないので新鮮で、とても嬉しいです!」
つい本音が出てしまい、その場の声がしんと静まり返ってしまいました。
やはりこういう話はするものじゃないですよね。
「すみません、こんな話してしまって。こんなことより、確認していなかったことがあるのですがよろしいでしょうか?」
「そ、そうね。これから少し忙しくなるから今のうちに聞いておいたほうがいいわね! 何が聞きたいのかしら?」
「ここで働かせていただく条件です。例えば、家は別で持つとか、どれくらいのお金がいただけるか、などですか。」
「ああ、その辺ならあまり心配しなくてもいいわよ。まず家については結構よ。欲しいというなら別だけど、基本は王城住み込みでいいのよ。お金に関してはまだ未定ね、働きによるわ。あまり重要性はないですし。」
「重要性がない、とは?」
「だって住み込みじゃない? 別に家賃を支払う理由もなければ、交通費なんかもないわよ。離地に行くというなら別で出すし、食事や衣服なんかもこっちで用意するし。衣服なんかは持ってきているものもあるでしょうし、好みが合わないなら言ってもらえば、一緒に買い物に行くとかもできるし。薬品なんかも国持だから、心配しなくても大丈夫よ。」
これほどまでに手厚い職だとは思っていませんでしたが、よく考えてみると王国お抱え医師ですものね。
こんな至れり尽くせりな職場で働かせていただくなんて、リュドミールに会ってよかったなあ、なんて思います。
「だけど、急だったからフローレンスの部屋がまだ準備できてなくってね。きちんと整理するまでリュドミールの部屋を使うといいわ。ゲストルームでもいいけど、あの子の部屋のほうが使いやすいものね。」
「すみません、こんな急に来ることになってしまいまして。」
「いいのよ。遅いよりすぐ来てくれたほうが助かるもの!まだ王城の中も全く見れてないだろうし、場所の把握だとかもしたいわよね? 一度荷物を部屋において、少し落ち着いたらリュドミールを連れていきなさい。この城の勝手知ったる脱走魔に教えてもらうのがいいと思うわ。」
「うるさいな……。まあ、とりあえず俺の部屋に案内するよ。」
「うん。ありがとうリュドミール。王城で働かせてもらうのもうれしいし、初めてできた友達と一緒にいれるなんて、すっごくうれしいわ! 改めて、これからよろしくね、リュドミール!」
「おう、俺もお前に会えて嬉しいし、一緒にいられるなんて幸運だと思ってるよ。これからよろしくな、フローレンス。」
にっこりと笑ったリュドミールに連れられ、王様と王妃様に少し挨拶をして二階中央を離れた。
「まさかあいつが女の子を連れてくるなんてな。」
「いいんじゃない? あの子の様子みると、一目ぼれみたいだし!」
「できればこのまま二人には付き合ってもらって、そのまま政権変更をして、俺は隠居して、孫の顔が早く見たいものだね。」
「あら、まだ何十年仕事が残っているというのに、暢気なものですね。でもまあ、そうなるように少しは仕掛けておいたほうがいいだろうから、わざわざあの子の部屋にしたのよ。なかよくなってくれるといいわね……。私の可愛い娘だもの!」
「君はそう侍女に話しかけて何度も引かれているから、今回は相当嬉しいんだろう? それに、」
「まさかああいうとは思っていなかったのだけれど。親代わりにならなきゃって思ったのもあるけど……。」
「気になるのか? フローレンスの目が。」
「そのためにわざわざ降りたんじゃない。近くで見たくてね。突然変異、とかならいいんだけどあの色は。」
「変な色ってわけでもないし、遠目は茶色だから断言はできないが。」
「時が来たら何か起こるわ。危機がこの数か月のうちに起こらなかったら、あの子に調べてもらいましょ。人生経験の一つになるわ。」
「彼女になり得る人の身辺調査がか? 悪趣味だな。」
「重要なことよ。私もあなたを調べたもの。」
「……え。」
「嘘に決まってるじゃない! 昔からすぐ騙される人ね!」
「悪かったな。」
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