光速の第一歩 その21
021
「効かない。それじゃあ僕には効かないよ、浅川さん」
僕はボロボロになりながら、さっきまで浅川さんが立っていた方に向かってそう言った。
正直、今もなお光速で動き回る浅川さんの姿は僕の目では追えなかったけれど、それでも構わず僕は話し続ける。
さっきから何度も死角から浅川さんにふっ飛ばされ続けているけれど、それでも僕は気にせず話し続ける。
それは、決して話し合いで解決したいとか、平和裏に解決したいといった理由ではなく、単純に格の差を見せたいという僕のつまらないプライドゆえの行為だった。
「浅川さんは速い。誰よりも。でも、軽くて、脆くて、――そして弱い」
「――!? うるせぇ!」
浅川さんはまた死角から僕をふっ飛ばしたが、僕はまた立ち上がる。
決して無傷ではなかったけれど、これしきのダメージで倒れるほどやわな体のつくりはしていない。――だって僕は人間ではないのだから。
「浅川さん、残念だけれど、どんなに頑張ってもあなたもきっとヒーローにはなれない」
『あなたは結局僕と同じだ』と、僕は断言した。
「……なぜだ?」
背後から浅川さんの声が聞こえる。
「さあ? そういう星のもとに生まれてきたんじゃないですかね?」
「……そういうものか?」
「そういうものですよ」
僕は答える。
「だったら……俺はどうすればいいんだろうな?」
浅川さんはまた小さな声でつぶやく。
「浅川さん、あなたは大人でしょう? だったら、――子どもたちに、僕たちに夢を与えてくださいよ」
「……」
「この世界にはスーパースターはいても困ったときに助けてくれるヒーローなんていない 。だから夢が必要なんです」
「……夢?」
浅川さんは不思議そうな顔でこちらを見る。
「そうです。悩んでないやつなんていない、苦しまないやつも、迷わないやつもいない。みんな多かれ少なかれ挫折して、夢潰えて、なりたい自分にはなれなくても生きていかなくちゃいけない」
「……」
「スーパースターだけじゃダメなんだ。だって、スーパースターでは夢をかなえた姿しか見せられ ないから、僕たちみたいなどうしようもないやつらを励ますことができない。
だからあなたみたいな『普通の人間』が頑張ることでしか夢や生きる希望を与えることができないやつらがきっと大勢います。だって、あなたはそいつらと同じ痛みを知っているから。
だから、――僕たちは決してヒーローにはなれなくても誰かのヒーローでありたいと思うことをやめてはいけないんです」
「そういうものか?」
「そういうものですよ」
と、僕は自信を持って告げる。
「そうか。じゃあさっさと終わらせようぜ」
そう言って浅川さんは前回と同じくクラウチングスタートの構えをとる。
僕は一瞬面くらったが、浅川さんはそんな僕に説明するように
「結局俺にはこれしかないからな。もう小細工はやめだ。今度こそ正面突破だよ」
と、宣言する。
「――臨むところです」
次の瞬間、音もなく、本当に消えたようにしか見えない浅川さんは一直線に近づいて僕の顔面を思い切り殴る。
――ゴン!
と僕の顔面から先ほど以上に鈍い音が鳴る。が、
「――!?」
僕はそのまま左腕で浅川さんの腕を掴む。
「捕まえた!」
そのまま僕は拳を大きく振りかぶり、力の限り浅川さんにぶつけた。
「――!?」
浅川さんは地面に叩きつけられ、その時点で勝負は決した。
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